研究課題
創薬資源「放線菌」からの新規抗生物質の創出が急減するなか、我々は「クテドノバクテリア(綱)」が、共通して分岐した菌糸に胞子を形成し、二次代謝産物生合成遺伝子群を複数有して種々の生物活性を示すなど「放線菌」様の有益な特徴を持つ菌群であることを見出した。昨年度までに浅間・烏帽子火山群に棲息し食べられる土として知られる「天狗の麦飯」や鬼首温泉地熱地帯の堆積物から新規クテドノバクテリアの分離に成功し、それらの系統分類学的特徴を明かとして1新科、1新属、5新種を創設した。本年度(2019年度)は、新たに蔵王山(標高約1700m付近)の土壌からDictyobacter属に属する新種を発見し、系統分類学的性質を解明してD. volcaniと命名して提唱した。さらに本綱を創設したCavalettiらの研究グループから分譲された未分類8菌株(SOSP株シリーズ)の系統分類学的試験も実施中である。これらの株はクテドノバクテリアの新しい系統に属し少なくとも1新科・2新属・6新種に位置していると推定された。これら分離株を含むクテドノバクテリア18菌種の全ゲノムを解読して解析したところ、サイズが5.54~13.66 Mbと原核生物としては大きく、巨大プラスミド(2.4-3.1Mb)を保有する菌種が存在した。二次代謝物生合成遺伝子クラスターは5-22個と放線菌に匹敵するほど多く、分子系統解析の結果、それらのほとんどは新規であることが強く示唆された。さらに分離株の培養抽出物からは、Ⅱ型ポリケチド合成酵素によって生合成されたと推察されるアントラキノン化合物を含む複数の生物活性物質を見出し構造解析中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究は①半選択培地を用いた分離株の拡充、②各種培養抽出物からの生理活性スクリーニング、③生理活性物質の精製及び構造解析、④ゲノムからの二次代謝物遺伝子群の探索と解析の4つの課題に取り組み、新たな有用微生物資源としての有益性を検証することを目的としたものである。現在までに1新科、1新属、6新種を創設し、加えて1新科・2新属・6新種を提唱予定であり、分類学的知見の乏しかったクテドノバクテリア綱の系統を飛躍的に拡充することに成功した。それらから生理活性スクリーニングにより複数種の化合物を見出して各種クロマトグラフィーにより精製した。その中の1つはHR-MS、各種NMRの結果、新規と推定されるアントラキノン化合物であることが分かった。これは薬剤耐性黄色ブドウ球菌に強い抗菌活性を有する。その他の化合物も構造解析中である。さらに計18菌種のクテドノバクテリア株の全ゲノムを解読したところ、ゲノムサイズが5.54~13.66 Mbと原核生物としては大きく、巨大なプラスミド(2.4~3.1Mb)を保有する菌種が存在した。二次代謝物生合成遺伝子クラスターは5-22個と放線菌に匹敵するほど多く、分子系統解析の結果、それらのほとんどは新規であることが強く示唆された。さらにCAZymes分類のうち,セルラーゼやヘミセルラーゼ を含む糖質加水分解酵素に属する遺伝子が63~139 個存在した。以上の成果はクテドノバクテリアが人類にとって有益な遺伝資源と成り得ることを強く示しており、本研究は概ね計画通りに進展している。
引き続きクテドノバクテリア綱の新しい系統に属する分離株の培養生理学的、化学分類学的、ゲノム系統学的性質を明らかとして新規系統を樹立する。クテドノバクテリア綱のThermosporothrix属及びDictyobacter属に属する分離株の培養抽出物から精製した抗菌化合物の構造を決定する。
生理活性物質スクリーニング及び大量培養のために購入予定であった設備備品(ジャーファーメンター)を購入しなかった。振とう培養器を代用した。その分を海外での学会発表及び電子顕微鏡観察外注費などに充てた。その差し引きとして163,184円を繰り越した。
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