研究課題/領域番号 |
18K05406
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
矢部 修平 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60564838)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クテドノバクテリア / 二次代謝物 / 放線菌 |
研究実績の概要 |
創薬資源「放線菌」からの新規抗生物質の創出が急減するなか、我々は放線菌様の形態分化を示す「クテドノバクテリア(綱)」が二次代謝産物生合成遺伝子群を多数有して種々の生物活性を示すなど放線菌の次の世代の有用菌群と成り得ることを見出した。 昨年度までに、食べられる土として知られる「天狗の麦飯」や蔵王山(標高約1700m付近)の土壌、鬼首地熱地帯の堆積物から複数の新規クテドノバクテリア株を分離することに成功し、それらの系統分類学的特徴を明らかとして1新科、1新属、6新種を提唱した。今年度は、これら新規株に加えてCavalettiらにより分離され未分類であったクテドノバクテリア株(SOSPシリーズ)も併せて系統分類学的特徴を明かとし、本綱に新たに1科、2属、5種を創設した。これまでの研究によって、分類学的知見の乏しかった本系統を飛躍的に拡充することができた。 さらに、クテドノバクテリア(コンポスト由来Thermosporothrix hazakensis COM3及び天狗の麦飯由来Dictyobacter alpinus Uno16)から抗菌物質の探索と精製、構造解析を行った。その結果、各種クロマトグラフィーにより4つの抗菌化合物の単離に成功し、そのうち2つの構造を決定した。それらは2,4,6-triphenyl-1-hexene及びN-acetyltryptamineであり、いずれも既知化合物であった。残り2つの二次代謝物の構造解析を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は①半選択培地を用いた分離株の拡充、②各種培養抽出物からの生理活性スクリーニング、③生理活性物質の精製及び構造解析、④ゲノムからの二次代謝物遺伝子群の探索と解析の4つの課題に取り組み、新たな有用微生物資源としての有益性を検証することを目的としたものである。 現在までに2新科、3新属、11新種を創設し、分類学的知見の乏しかったクテドノバクテリア綱の系統を飛躍的に拡充することに成功した。それらから生理活性スクリーニングにより4種の化合物を見出して各種クロマトグラフィーにより精製した。その中の1つは新規と推定されるアントラキノン化合物であることが分かったが構造の決定に難航中である。構造が決定できた2つの抗菌化合物は既知であった。さらに計18菌種のクテドノバクテリア株の全ゲノムを解読したところ、ゲノムサイズが5.54~13.66 Mbと原核生物としては大きく、二次代謝物生合成遺伝子クラスターは5-22個と放線菌に匹敵するほど多く、分子系統解析の結果、それらのほとんどは新規であることが強く示唆された。ゲノム中には多種多様な糖質関連酵素(CAZymes)遺伝子も有し、特にセルラーゼやヘミセルラーゼ を含む糖質加水分解酵素に属する遺伝子が63~139 個と多数存在した。以上の成果はクテドノバクテリアが二次代謝物や木質バイオマス利用の酵素源として有益な遺伝資源と成り得ることを強く示しており、本研究は概ね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
クテドノバクテリアには未だ培養されていない目・科レベルで新規のグループが存在する。その未知のグループは高山地帯や南極や砂漠などの極限貧栄養環境において優占生息しており、その生息環境の特殊性からユニークな二次代謝物を生産していることが見込まれる。これらを分離するためには新しい集積培養法を確立する必要がある。そのため、最終年度はカラムに分離源である蔵王山や南極の土壌を充填し、そこに火山ガスである一酸化炭素や水素、二酸化炭素を循環させて微生物を活性化させてから分離するなど、クテドノバクテリアを含む未培養菌群の集積法の確立に挑む。また、構造解析中の抗菌化合物の構造を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金は、ジャーナルへの論文投稿の遅れや想定していた研究の遅れなどによって生じた。当該助成金は論文原稿の英文校閲及び投稿費、ゲノム解読や発現解析のための試薬や外注費などに使用する。
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