研究課題/領域番号 |
18K05407
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
仲本 準 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (30192678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子シャペロン / ClpB / DnaK / DnaJ / シアノバクテリア / シャペロンネットワーク |
研究実績の概要 |
分子シャペロンは単独ではなく、異なるシャペロン間で協調的に働き、プロテオームの恒常性維持に貢献する。本研究では、シアノバクテリア(Synechococcus elongatus)を用いて、新規で生存に必須とされるさまざまなシャペロン系の解明を目的とする。我々は既に、DnaK2/DnaJ2/GrpE、HtpG-DnaK2/DnaJ2/GrpE、及びClpB1-DnaK2/DnaJ2/GrpEのシャペロン系が、変性タンパク質の再折りたたみや変性タンパク質凝集体の可溶化・折りたたみを介助することを明らかにしてきた。2018年度には、DnaJ2(II型)とは異なるクラスに分類される(Jドメインを共通に有する)Jタンパク質であるDnaJ1(I型)が、DnaK2のコシャペロンとして、変性タンパク質の折りたたみを促進することを見出した。2019(当該)年度には、ClpB1がこのDnaK2/DnaJ1/GrpEシャペロン系と協調して、変性タンパク質の凝集体を可溶化することを明らかにした。一方、ClpB2は、DnaK2/DnaJ2/GrpE系とは異なり、DnaK2/DnaJ1/GrpE系のシャペロン作用を阻害することはなかった。S. elongatusのゲノムにはJタンパク質をコードする遺伝子(DNA配列)が10個存在することを我々は明らかにしているが、DnaJ1やDnaJ2とは異なるクラス(III型)に属するDnaJ3A、DnaJ3B及びDnaJ3Cのどれが存在しても、DnaK2、ClpB1、ClpB2のシャペロン作用(変性タンパク質の再折りたたみや凝集体の可溶化)は全く観察されなかった。 上記以外の当該年度中の成果の一つとして、分子シャペロンの発現調節,構造・機能,病気・創薬との関わりについて解説したテキスト(単著)を出版した。単著の専門書としては初めての分子シャペロンの解説書である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度において、ClpBは全2種類、DnaKは全3種類のうちの2種類、Jタンパク質は全10種類のうち5種類について、変性タンパク質の(再)折りたたみ反応及び変性タンパク質凝集体の可溶化・折りたたみ反応への関与を解析し、DnaK2、DnaJ1とDnaJ2のJタンパク質のみが変性タンパク質の折りたたみ反応を介助し、ClpB1のみが凝集体の可溶化に関与するということを明らかにすることができた。これは、シアノバクテリアの分子シャペロンや(DnaKのはたらきを補助するJタンパク質などの)コシャペロンには、複数のパラログを有するものが存在するが、折りたたみや凝集体の可溶化などの(今までに大腸菌や酵母などで報告されてきた)シャペロン機能を担うのは、ごく限られたパラログのみであることを示すものである。逆の見方をすれば、シアノバクテリアの多くのパラログの機能は、in vitroかin vivoにかかわらず、不明であるということである。これらの分子シャペロンやコシャペロンのパラログは、進化の過程で、シアノバクテリア特有の新規機能を獲得したのかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き、精製方法や折りたたみ反応の条件等を検討したが、さまざまなJタンパク質、ClpB1あるいはClpB2が存在しても、DnaK3には変性タンパク質の折りたたみの介助(促進)や凝集体の可溶化を行うはたらきは、全く観察されなかった。これは、DnaK3がこのようなシャペロン機能をもたないことを強く示唆するものではあるが、DnaK1やDnaK2には無くてDnaK3のみが有するC末端の疎水性アミノ酸配列がもたらす構造不安定性も原因として考えられる。今後は、この配列を除去したDnaK3ΔCを発現するコンストラクトを作成する。さらに、DnaK1を発現するコンストラクトを作成し、これらを大腸菌で大量発現し翻訳産物を精製する。DnaK1及びDnaK3ΔCが、さまざまなJタンパク質、GrpEと協調して、タンパク質の折りたたみを促進するか、また、ClpB1あるいはClpB2と共に、脱凝集反応を行うかなどを解析する。 我々は、ClpB2にプレフォルディン(prefoldin)様の配列を見いだした。この配列はClpB1には存在しない。分子シャペロンの一つであるプレフォルディンは、真核生物のサイトゾルに存在し、新規に合成されたポリペプチド鎖や変性タンパク質に結合し、それをシャペロニン(group IIシャペロニン)に受け渡す。ClpB2の必須性は、GroEL(group Iシャペロニン)と協調的にシャペロン作用することによるのかもしれない。今後は、ClpB2とGroEL1あるいはGroEL2の相互作用を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大のために、学術集会が中止されたことに加え、スイス・ローザンヌ大学のPierre Goloubinoff教授研究室におけるルシフェラーゼを用いた分子シャペロン活性測定法の習得も不可能になり、備品(ルミノメーター)の購入の見通しが立たなくなった。これらの理由で、支出が減り、次年度使用額が生じた。 これらを、経年劣化している機器・器具の修理・補填や、学術雑誌への論文投稿費用や国内外における成果発表等に用いる予定である。
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