大腸菌とは異なり、Synechococcus elongatus PCC7942株を含むシアノバクテリアのゲノムには、複数種のgroELと clpB遺伝子が存在する。本研究で得られた実験結果は、遺伝子重複により二つの遺伝子が生じ、片方(groEL1とclpBI)が祖先遺伝子の機能を維持したのに対して、 他方(groEL2とclpBII)は新規で生存上有利な機能を獲得したという仮説を支持するものであった。進化的に保存された分子シャペロンホモログ間には高い構造類似性が見られ、機能も同様であると考えられているが、研究代表者の仮説はこのような通説にチャレンジするものである。GroEL2は多様な環境ストレス下における生存上有利な働きをするのに対して、ClpBIIは必須の機能をもつに至った、と考えている。なお、GroEL2とClpBIIの一次構造は、其々のホモログとの間に高い類似性を示すが、高次構造は全く異なるものであった。この仮説とこれを支持する研究結果を纏めた学術論文が、Springer社から出版された学術書(Ecophysiology and Biochemistry of Cyanobacteria)の一つの章を飾った。さらに、国際会議や二つの国内会議でも、この仮説を発表した。 PCC7942株のGroELは高pH(8.0~8.5)で高いシャペロン活性を示すことを発見した(2021年)が、Hsp90やDnaK2のシャペロン活性も同様のpH応答性を示すことを明らかにし報告した。この論文は編集長に注目されて、その要旨を図示したものが当該雑誌の表紙を飾った(Journal of Biochemistry,2021年)。以上の研究成果は、シアノバクテリアの分子シャペロン活性が光合成活性と同調して制御され、光合成タンパク質の安定性・機能維持に分子シャペロンが関与することを示すものである。
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