研究課題/領域番号 |
18K05414
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石塚 盛雄 中央大学, 理工学部, 教授 (50168241)
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研究分担者 |
赤沼 元気 立教大学, 理学部, 助教 (30580063)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リパーゼ / リパーゼ・スーパーインデューサー / バイオサーファクタント / Fatty alcohol / 長鎖エーテル / 脂質代謝 / シグナル伝達 / 細胞内ポリエステル |
研究実績の概要 |
高級アルコールのstearyl alcohol (StOH)の培養培地への添加による界面活性タンパク質(EliA)とリパーゼ(lipase)超発現・超分泌、及び生分解性ポリエステルのpolyhydroxyalkanoate(PHA)の細胞内大量蓄積時に、発現量が増加したタンパク質の中から、プロテオーム解析によりアルコール脱水素酵素(AdhA)が同定され、その遺伝子(adhA)欠損株ではlipase生産量が低下することが判明している。相同組換え技術によりadhA相補株の作製に成功し、StOHを加えた時のlipase活性が野生株培養時のlipase活性と同程度まで回復したので、StOHによるlipase超発現・超分泌にはAdhAの発現が必須であることが判明した。AdhAによるStOHの酸化を経由したaldehyde、脂肪酸への酸化、β-酸化経路によるアセチルCoAの大量蓄積、生分解性ポリエステルのpolyhydroxyalkanoate(PHA)の大量蓄積経路の推定が可能になった意義は大きい。研究代表者らの今までの研究により、二種類のlipaseと一種類のカルボン酸エステルesteraseが見出され、その遺伝子配列、発現タンパク質の性質の一部が判明した。二種類のlipaseは共に50℃でも安定で、超発現誘導・分泌生産可能であり、例えばNT80lipaseはt-buthyl-3-acetoxy-butanoate、NT92lipaseはEthyl-2-heptanoateに良好な立体選択性を有し、部位特異的アミノ酸置換法で熱安定性に寄与するアミノ酸残基についても徐々に解明されてきたので、このままでも実用的応用が可能である。他方、NT80esteraseはラクトン化合物に特異的に作用する酵素であるが、熱に不安定な為、分子進化工学的手法により12℃の熱安定性向上に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AdhA遺伝子(adhA)相補株培養用培地にStOHを加えた時のlipase活性が野生株培養時のlipase活性と同程度まで回復したので、StOHによるlipase超発現・超分泌にはAdhA酵素タンパク質の発現が必須であることが判明した。①StOHの培地への添加により界面活性タンパク質EliAが大量に発現し、細胞外へ分泌され、②界面活性糖脂質のRhamnolipidと共同してStOHの可溶化や細胞内への取込、③AdhAによるStOHの酸化を経由したaldehyde、脂肪酸への酸化、④β-酸化経路によるアセチルCoAの大量蓄積、⑤生分解性ポリエステルのpolyhydroxyalkanoate(PHA)の大量蓄積経路の推定が可能になった意義は大きい。研究代表者らの今までの研究により、二種類のlipaseと一種類のカルボン酸エステルesteraseが見出され、その遺伝子配列、発現タンパク質の性質の一部が判明した。二種類のlipaseは共に50℃でも安定で、超発現誘導・分泌生産可能であり、良好な立体選択性を有し、部位特異的アミノ酸置換法で熱安定性に寄与するアミノ酸残基についても徐々に解明されてきたので、このままでも実用的応用が可能である。他方、NT80esteraseはラクトン化合物に特異的に作用する酵素であるが、熱に不安定な為、分子進化工学的手法により12℃の熱安定性向上に成功している【日経産業新聞報道記事、2013年8月5日(月)付、11面(先端技術)中大が酵素開発 50度でも壊れず「中央大学の石塚盛雄教授と赤沼元気助教らは・・・」報道資料参照)】。
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今後の研究の推進方策 |
相同組換え技術によりAdhA遺伝子(adhA)相補株の作製成功により、AdhAによるStOHの酸化を経由したaldehyde、脂肪酸への酸化、β-酸化経路によるアセチルCoAの大量蓄積、生分解性ポリエステルのpolyhydroxyalkanoate(PHA)の大量蓄積経路の推定が可能になった意義は大きいが、Lipaseの超発現・超分泌現象については、油脂を誘導剤としたLipQ・lipRの2 component systemだけでは説明不十分で、aldehyde等、上記代謝経路の中間産物の影響についての詳細な検討が必要である。野生株とadhA欠損株で、培地にStOHの替りに水溶性長鎖エーテルのpolyoxyethylene 20 oleyl ether(POE20)を加えた時のlipase活性に大きな差は見られなかったことから、StOHと水溶性POE20は異なる誘導の経路を通ることが示唆されている。今後、更なる共超発現・分泌ネットワークの解明が必要である。Ralstonia sp. NT-80由来のラクトン特異的esterase(EstA)については、既に分子進化工学的手法により12℃の熱安定性向上に成功している【日経産業新聞報道記事、2013年8月5日(月)付、11面(先端技術)中大が酵素開発 50度でも壊れず「中央大学の石塚盛雄教授と赤沼元気助教らは・・・」報道資料参照)】ので、eliA、lipA遺伝子領域へのEstA遺伝子(estA)挿入によりEstA超発現・分泌システム導入法と大量調製法を確立する。また、時間的余裕があれば超発現・分泌システムの大腸菌等の他菌種への移植を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費申請当初、機器備品として、全自動無細胞タンパク質合成装置の購入を予定していたが、交付額が申請額の約三分の二となり、研究分担者への配分額を差し引くと購入困難のため、別予算で購入したこと、本研究にも必要不可欠なRT(q)-PCR装置の故障に伴う更新も別予算で処理できたこと、更に本研究にも必要不可欠な分子間相互作用測定装置も別予算で購入できたことに加えて、年明けの新型コロナウィルス感染症(COVID-2019)蔓延に伴う本格的実験自粛により、次年度繰越研究費が生じた。翌年度に請求研究費と合わせて、試薬等の消耗品、解析委託、成果公表等に支出する予定である。尚、タンパク質結晶化装置あるいは判別装置の大幅な価格低下が生じる場合には、購入を検討する。
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