乳酸菌の1種ラクトバシラスは、腸管において常にサブ・ポピュレーション(0.1~数%)であり、優勢化することはないが、乳酸や抗菌性物質を生産して菌叢全体を安定化させて、有害菌の侵入を防ぐ例が知られている。実施者らは、ある種のラクトバシラスが、貧栄養条件下で隣接する大腸菌細胞とマイクロ共凝集体を形成して効率的に増殖する現象を発見した。この乳酸菌と大腸菌の新しい相互作用のメカニズムを生態学的ニッチの新しい概念「隣接可能型生態学的ニッチAdjacent-Possible Ecological Niche (APEN)」として定義して、そのメカニズムを解明することを目的として研究は実施された。 相互作用を可視化する目的でLactobacillus caseiにプラスミドを導入することを試みた。通常、多糖類を分泌する乳酸菌への遺伝子導入は容易ではないが、1株にリステリア用プラスミドpJEBan6の導入に成功した。今後、安定発現のための諸条件を検討していく必要がある。また、大腸菌とカゼイは、共培養条件で約1か月間、的確に培地交換することで生菌数を維持することが分かった。これは、両菌が安定的に相互作用しながら共存できることを示しており、生態学的に重要と考えられた。最後に、この相互作用に関わる遺伝子を同定するために、プラスミドではなく自然形質転換を応用することを検討した。近年、ラクトバチルス属の中にも自然形質転換能に関与する遺伝子(ComK)がゲノム上に見出されており、その潜在的な能力が指摘されている。そこで、乳酸菌カゼイの関連遺伝子を同定するために自然形質転換を応用した新しい実験系を構築した。自然形質転換のマーカーとなる遺伝子を今後、適切に選択できれば、株を選抜して、大腸菌との共培養を選択圧として相互作用遺伝子のターゲティングができるのではないかと考えている。
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