研究課題/領域番号 |
18K05420
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
尹 忠銖 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (40432801)
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研究分担者 |
本山 高幸 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (70291094)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 菌類 / ゲノム編集 / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
糸状菌はペニシリンのような医薬品として有用な化合物を始めとする、多様な二次代謝産物の生産者であり、ゲノム中に膨大な数の二次代謝産物生産関連遺伝子群を保持していることが明らかになり、未利用遺伝子資源として注目を集めている。しかし、天然物を作るはずの二次代謝関連遺伝子群の大部分は一般的実験室培養条件下では休眠状態であることも明らかになっており、この遺伝子群が作るはずの産物も不明であることから糸状菌における休眠遺伝子群活性化方法としてゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを利用することを目指して研究を行っている。糸状菌の二次代謝産物生産には複数の遺伝子がクラスターを形成し、協調して一つの産物を作っているのが一般的である。また、クラスターを形成している遺伝子は個別的にプロモーター領域を保持し、RNA polymeraseが結合して転写誘導される。そのため、一つの二次代謝産物を作らせるためにはクラスター内の全ての遺伝子を個別に転写誘導させる必要がある。カビ毒であるテヌアゾン酸は糸状菌では珍しくたった一つの遺伝子(TAS1)により生合成されることからCRISPR/Cas9システムを用いた転写活性化を最初に適用する遺伝子として選定した。また、テヌアゾン酸の生合成を特異的に制御する転写因子も発見している。本年度はイネいもち病菌をモデルカビとしてTAS1遺伝子をCRIPSR/dCas9システムを利用して活性化してテヌアゾン酸の生産を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCRIPSR/dCas9システムを利用して糸状菌において遺伝子を活性化する方法を確立することを目的とした。イネいもち病菌の中で正常に動いていることが確認されたCas9遺伝子に対して遺伝子切断能を無くすためD10AとH840変異を導入し、遺伝子活性化因子であるVPR (VP64 (4 x virus protein 16), p65 and Rta (replication and transcription activator) fused gene)を連結したfusion-geneを作製した。TAS1上流200から500bpをターゲッティングするguide-RNAを設定しdCas9-VPRをイネいもち病菌の中で発現させた結果、negative-controlとして私用したVPRなしのdCas9単独発現株ではテヌアゾン酸の生産が認められなかったがdCas9-VPRを発現させた株ではTAS1によるテヌアゾン酸の生産が認められたことからイネいもち病菌でもCRIPSR/dCas9システムが適用できることを確認した。以上のように、おおむね順調に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度の続きの研究を行うとともに、イネいもち病菌の二次代謝産物生産関連遺伝子群の中で本研究室でその生産化合物を明らかにしたnectriapyrone生産遺伝子群に対する遺伝子活性化を目指す。CRISPR/dCas9システムの長所はguide-RNAを増やすことで同時に複数の遺伝子をターゲッティング出来ることである。テヌアゾン酸は遺伝子一つで生産されるがnectriapyroneは二つの遺伝子NEC1 (polyketide synthase)とNEC2 (O-methyl transferase)によって生産されることが明らかになっている。イネいもち病菌でCRISPR/dCas9システムを用いてNEC1とNEC2を同時に活性化できればnectriapyroneの生産有無で簡単にシステムの作動を確認できる。CRISPR/dCas9システムで複数遺伝子の同時活性化が確認できたら三つ以上の生合成遺伝子で二次代謝産物(未知の生産物)を生産することが予想される遺伝子群に対して活性化を行い新規二次代謝化合物の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が699,575円生じた。本年度、dCas-VPR fusion遺伝子の作製でVPRは酵母でその活性が確認できた配列を使用したため、VPRをイネいもち病菌のコードンに合わせるための遺伝子操作費用及び確認するためのタンパク質関連費用が減少し、次年度使用額が生じた。次年度は、本年度にVPRがイネいもち病菌における遺伝子活性化能は確認できたがコードンを合わせることで活性化能の上昇が見込まれることから次年度にVPRのコードン最適化を行う予定であるため次年度予算は予定通り使用する
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