研究実績の概要 |
近年のゲノム解析技術の進歩により菌類のゲノム上には今まで我々が予想した以上の天然化合物を作ることが知られている二次代謝関連遺伝子が数多くコードされていることが明らかになっている。しかし、その遺伝子の大部分は一般的実験室培養条件下では休眠状態であることも明らかになっていることからこれらの遺伝子群を活性化し新規天然化合物を単離するため多くの研究が行われ来た。従来の活性化方法としては発現プロモーター置換やエピジェネティック調節による遺伝子群の活性化方法を用いて一定の結果が得られているが限られた遺伝子にしか適用できないのが現実であることから本研究では糸状菌における新しい休眠遺伝子群活性化方法としてゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを利用することを目指して研究を行っている。 昨年度まではイネいもち病菌をモデルカビとして一つの生合成酵素で作られることが知られているテヌアゾン酸の生合成遺伝子(TAS1)の活性化に成功し、CRIPSR/dCas9システムの遺伝子転写活性化因子であるVPR(VP64, p65 and Rta fused gene)をイネいもち病菌のコドンに最適化した因子を用いてイネいもち病菌の中で生合成される化合物、nectriapyroneの生産に必要な二つの遺伝子(NEC1, NEC2)の同時活性化を試みた結果、変異株でCas9とVPRが発現されていることはqRT-PCRで確認できたがNEC1とNEC2遺伝子の活性化は見られなかった。その原因としてNEC1とNEC2遺伝子の転写開始点が正確に決まっていないことから転写開始がCas9により阻害されている可能性と転写活性化因子をイネいもち病菌のコドンに最適化したことにより、転写活性化能力が落ちている可能性が予想される。
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