研究課題/領域番号 |
18K05421
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松山 晃久 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (90399444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 翻訳 |
研究実績の概要 |
古くに翻訳開始因子として単離されたeIF5Aは、近年の研究において、翻訳の伸長反応で特定のアミノ酸配列を有するタンパク質の翻訳を促進することが明らかになっている。eIF5Aは、二段階の反応により、ハイプシン化と呼ばれる特殊な翻訳後修飾を受け、まずeIF5Aにデオキシハイプシンが付加された後、さらにその側鎖に水酸基が付加される。この水酸基は高等生物では生育に必須であるが、酵母では水酸基の付加が起こらない変異株は生育可能である。我々はこれまでに水酸基の欠損により翻訳に影響を受けるタンパク質を探索してきたが、そこで得られたタンパク質の多くは、eIF5Aによる制御を受けるとされるアミノ酸配列を有していないことから、eIF5Aはハイプシン化修飾の状況に応じて異なるタンパク質を翻訳の標的としていることが予想された。 そのため、本研究では近年タンパク質の条件的ノックダウンが可能なAIDシステムを用いることにより、ハイプシン化に関わる酵素Dys1とMmd1を人為的に制御可能な株の作製を目指したが、試行錯誤の結果、これらのタンパク質に関してはAID法ではノックダウンが不十分であることが判明した。そこで他の方法によってこれらの遺伝子を一時的に不活化可能な株を作製することを試みた結果、dys1遺伝子に関しては、チアミンの存在下で活性を抑制できるシャットオフ株が単離できた。また、一部の変異株について単離モノソームを用いたリボソームプロファイリング解析を行い、ハイプシン化不全の株において、特に翻訳に影響を受ける配列を解析した結果、mmd1遺伝子変異株では、eIF5Aタンパク質そのものが存在しない場合と同様に、連続したプロリンを含む配列でリボソームが一時停止を起こすことを見出した。しかし、同時に、翻訳におけるリボソームの一時停止が必ずしもタンパク質の発現レベルの増減と相関しないことも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験に必要なプラスチックウェアの供給が相変わらず不足している中、なんとかモノソームを用いたリボソームプロファイリング解析を一度行うことはできたが、その解析の結果、より高度なダイソームを用いたリボソームプロファイリング解析、あるいは他の解析法を用いた標的タンパク質の探索が必要と判断した。一方、苦戦していたDys1のノックダウンについては、AID法を諦め、プロモーターを用いたシャットオフを行うことで、今後の解析に利用できそうな表現型を示す株が取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは単離したモノソームを用いてリボソームプロファイリング解析を行っていたが、この解析では、翻訳効率の変化は検出できるものの、リボソームの一時停止が直接翻訳効率の増減に影響するとは限らないこともわかった。すなわち、タンパク質としては翻訳効率の増減が見られないものでも、mmd1変異株などでリボソームの一時停止が起きているタンパク質が存在するということが明らかとなった。したがって、今後は、安定同位体アミノ酸を用いる相対定量法であるSILAC法などの利用を視野に入れ、野生株とeIF5Aの翻訳後修飾不全株の間で、発現レベルに影響が出るタンパク質を網羅的に検索することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたように、リボソームプロファイリング解析を一度行ったものの、その結果、予想していた解析結果とは異なり、モノソームを用いたリボソームプロファイリング解析では検出不可能な標的タンパク質が多く存在することが判明したことに加え、実験に必要な特殊なプラスチック器具の供給が滞りがちであることから、引き続き何度かリボソームプロファイリング解析を行うのは見送ることにしたため、次年度使用額が生じた。今後はSILAC法など別の方法、あるいは、モノソームではなく、ダイソームを用いたリボソームプロファイリング解析などにより、eIF5Aの修飾の異なる複数の株において発現レベルに差異を生じるタンパク質を網羅的に検索していきたい。
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