研究実績の概要 |
ハイプシン化と呼ばれる特殊な翻訳後修飾を受ける唯一のタンパク質eIF5Aは、近年の研究により、連続したプロリン等、特定のアミノ酸配列を有するタンパク質の翻訳を促進することが明らかになった必須タンパク質である。ハイプシン化修飾は二段階の酵素反応で起こり、最初にデオキシハイプシン化酵素DHSがスペルミジンのブチルアミン部分をeIF5Aのリジン残基の1つに転移させ、その後、デオキシハイプシン水酸化酵素DOHHが側鎖を水酸化して完了する。酵母では二段階目の反応は生育に必須ではなく、DOHHをコードする遺伝子の欠損株は生育可能であるが、ミトコンドリアの機能等に欠損を生じ、その表現型の原因は未解明である。 本研究は当初、eIF5Aがタンパク質の翻訳に関わることから、翻訳時のリボソームの一時停止を検出できるリボソームプロファイリングにより、デオキシハイプシン残基の水酸化が起こらないDOHHの欠損株において、翻訳に影響を受けるタンパク質をスクリーニングすることを目指していたが、リボソームプロファイリングで解析したところ、意外にも翻訳効率が大きく変化するようなタンパク質は見出せなかった。 そこで最終年度は、非標識プロテオミクス解析により、DOHH遺伝子破壊株で発現レベルが低下するタンパク質をスクリーニングした。その結果、全体のタンパク質の約1/3に当たる1,500タンパク質ほどが質量分析により検出できたが、このうち30余りのタンパク質が、野生株と比較してDOHH遺伝子破壊株で有意に発現レベルの低下を示した。これらのタンパク質について、リボソームプロファイリングのデータを精査した結果、アミノ酸合成関連遺伝子の一般的調節に関与するFil1などのタンパク質でDOHH遺伝子破壊株での翻訳効率が変化しており、ハイプシン残基の水酸化がこれらのタンパク質の翻訳を制御していることが示唆された。
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