研究実績の概要 |
ヒトは多数の微生物と共生し、それらは健康に寄与する微生物、疾病に関与する微生物などに分類できる。本研究は皮膚上の細菌(皮膚細菌叢)を対象とする。 アトピー性皮膚炎では、顕著に増加するStaphylococcus aureusが炎症悪化に関与する。一方、健常者ではS. epidermidis が多く存在し、種々の有益作用(S. aureusの生育抑制など)を保持する。皮脂中にはサピエン酸(6-cis-C16:1, SA)が存在し、健常者ではSAがS. aureusの生育を抑制しS. epidermidis の生育を抑制しないことにより健全な皮膚細菌叢が維持される。しかし、アトピー性皮膚炎ではSA含量が約1/10に減少してS. aureusが 増加する。 本研究では、天然油脂中にないSAと同等の抗菌活性を持ち、SAの異性体である天然油脂中のパルミトレイン酸(9-cis-C16:1, PoA)を、酵素・微生物法でPoA結合リン脂質に変換する方法を検討する。このリン脂質は、健常時は抗菌活性がない。一方、S. aureusだけがホスフォリパーゼを発現することから、S. aureus感染時のみこのリン脂質が活性型のPoAに変換され、皮膚細菌叢が健全化されるという特徴がある。 本年度は、酵素法により植物油からPoA含量を高め、PoAの抗菌活性を妨害するオレイン酸含量を下げることを試みた。シーベリー由来脂肪酸(PoA, 40%、オレイン酸, 10%)、ラウリルアルコール、Candida rugosaリパーゼで選択的にエステル化し、エステル画分中の脂肪酸組成を調べたところ、PoA含量を1.8倍に高め、2種の異性体が混じったオレイン酸含量を0.6, 0.2倍に減らすことができた。
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