研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎では、皮膚上で顕著に増加するStaphylococcus aureusが炎症悪化に関与する。一方、健常者ではS. epidermidis が多く存在し、種々の有益作用(S. aureusの生育抑制など)を保持する。皮脂中にはサピエン酸(6-cis-C16:1, SA)が存在し、健常者ではSAがS. aureusの生育を抑制しS. epidermidis の生育を抑制しないことにより健全な皮膚細菌叢が維持される。しかし、アトピー性皮膚炎ではSA含量が約1/10に減少してS. aureusが増加する。本研究では、天然油脂中にないSAと同等の抗菌活性を持つ天然油脂中のパルミトレイン酸(9-cis-C16:1, PoA)を、酵素法でPoA結合リン脂質に変換する方法を検討する。 リゾリン脂質に脂肪酸(DHAなど)をエステル化させる研究は、ホルムアミドまたはグリシンを反応系内に添加する報告があることから(アミンが酵素反応に重要)、それらの手法が再現できるかどうかを調べた。70mgの大豆由来リゾリン脂質、210mgのDHA含有脂肪酸(DHA, 68%)、2gのグリセリン、150mgのグリシンまたは0.182mLのホルムアミド、40mgのホスフォリパーゼA2、マイクロLの0.3M CaCl2からなる反応液を40℃で2日間反応させた後、SEP-PACKシリカカラムでリン脂質画分を回収し、脂肪酸組成を調べた。その結果、ホルムアミド添加系ではDHA含量が17.6%、グリシン添加系ではDHA含量が13.6%となり、過去の報告が再現された。一般に、酵素はDHAに作用しづらく、C16:1などの脂肪酸には作用しやすいことから、本反応系を用いることにより、リン脂質にC16:1を導入することが可能と考えられる。
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