研究課題
アトピー性皮膚炎では、皮膚上で顕著に増加するStaphylococcus aureusが炎症悪化に関与する。一方、健常者ではS. epidermidis が多く存在し、種々の有益作用(S. aureusの生育抑制など)を保持する。皮脂中にはサピエン酸(6-cis-C16:1, SA)が存在し、健常者ではSAがS. aureusの生育を抑制しS. epidermidis の生育を抑制しないことにより健全な皮膚細菌叢が維持される。しかし、アトピー性皮膚炎ではSA含量が約1/10に減少してS. aureusが増加する。本研究では、天然油脂中にないSAと同等の抗菌活性を持つ天然油脂中のパルミトレイン酸(9-cis-C16:1, POA)を、酵素法でPOA結合リン脂質に変換する方法を検討する。これまでの研究で、卵黄リン脂質に含まれるオレイン酸はPOAの抗菌活性を妨害することを見出したことから、卵黄リン脂質に結合している脂肪酸を水素添加して飽和脂肪酸に変換したリゾ型リン脂質を原料とした。既報の反応系を踏襲し、70mgのリゾリン脂質、210mgのPOA、2gのグリセリン、アミン(150mgのグリシンまたは0.182mLのホルムアミド)、60mgの豚由来ホスフォリパーゼA2、20マイクロLの0.3M CaCl2からなる反応液を37℃で4日間反応させた。その結果、リゾ型リン脂質がエステル化されてリン脂質に変換された割合は、グリシン系で37%、ホルムアミド系で52%であった。反応物をSEP-PACKシリカカラムでリン脂質画分を回収し、脂肪酸組成を調べたところ、グリシン添加系ではPOA含量が23%、ホルムアミド添加系ではPOA含量が28%となっていた(リン脂質の構造上、POA含量は最大で50%にしかならない)。
2: おおむね順調に進展している
POA結合リン脂質の合成条件が確立され、延長した残り1年間で目的が達成できそうである。
確立した反応系を用いて数グラムのPOA結合リン脂質を作成し、それを含む培地でStaphylococcus aureusを培養し、生育途中でPOAが遊離して抗菌活性は発揮され、菌の生育が停止するという仮説の妥当性を検証する。
その他の業務(関連するが別の研究テーマ、招待講演など)の影響で研究を1年延長し、そこで経費を使用するため。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Int. J. Mol. Sci.
巻: 22 ページ: 5097-5107
10.3390/ijms22105097
巻: 22 ページ: 12056-12069
10.3390/ijms222112056