研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎では、皮膚上で顕著に増加するStaphylococcus aureusが炎症悪化に関与する。一方、健常者ではS. epidermidis が多く存在し、種々の有益作用(S. aureusの生育抑制など)を保持する。皮脂中にはサピエン酸(6-cis-C16:1, SA)が存在し、健常者ではSAがS. aureusの生育を抑制しS. epidermidis の生育を抑制しないことにより健全な皮膚細菌叢が維持される。しかし、アトピー性皮膚炎ではSA含量が約1/10に減少してS. aureusが増加する。本研究では、天然油脂中にないSAと同等の抗菌活性を持つ天然油脂中のパルミトレイン酸(9-cis-C16:1, POA)を、酵素法でPOA結合リン脂質に変換する方法を検討する。 卵黄リン脂質に結合している脂肪酸を水素添加して飽和脂肪酸に変換したリゾ型リン脂質を原料として、豚由来ホスフォリパーゼA2とホルムアミドを添加する既報の反応系を踏襲し、POA含量が28%であるリン脂質を得た(リン脂質の構造上、2位にしかエステル化しないため、POA含量は最大で50%にしかならない。残りの脂肪酸は抗菌活性を妨害しない脂肪酸である)。反応物をSEP-PACKシリカカラムでリン脂質画分を回収し、微量液体希釈法により、S. aureusおよびS. epidermidis に対する抗菌活性(最小生育阻止濃度)を測定した。しかしながら、当初の期待に反し、有意な抗菌活性が得られなかった。また、S. aureusのみがホスフォリパーゼ活性を有しているため、菌の増殖と共に遊離型のPOAが精製し、培養開始から少し経ってからS. aureusのみの生育が抑制されると推定したが、その傾向も認められず、本研究は終戦とすることにした。
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