神経変性疾患や炎症性疾患、さらにはガンなど多くの疾患の原因の1つである小胞体(ER)ストレスを、普遍的に観察されるアスパラギン結合型(N結合型)糖鎖の生合成経路をレポーターとして検出し、ストレスを定量的に評価する系を構築した。 本年度は、N-結合型糖鎖生合成経路の産物であるN結合型糖鎖(N-glycan)と生合成過程で生成する分解物である遊離糖(free oligosaccharide; fOS)の定量値を統合して、ERストレスを定量的に評価する系を構築した。糖鎖群の定量は、前年度までの方法を改善しながら、質量分析法を用いて行った。ツニカマイシンおよびタプシガルギンを用いてモデル細胞のHeLa細胞に対してERストレスを誘導し、経時的な糖鎖の量と構造の変化を追跡した。 得られたN-glycanとfOSの定量値は階層型クラスター分析と主成分分析によって統合し、ERストレスの定量的な評価が可能かどうかを検討した。階層型クラスター分析により、N-glycanとfOSの定量的な変化の追跡は、ERストレスの経時的な進行を示唆した。また、主成分分析によって、ツニカマイシンまたはタプシガルギンでERストレスを誘導された細胞は異なるクラスターを形成し、本法がERストレスの原因を区別し得ること、さらに、誘導剤の濃度の違いによっても異なるクラスターを形成したことから、ERストレスの急性度を定量的に表現できる方法論となることを示すことができた。 既存のERストレスマーカータンパク質(12種類)によるERストレスの検出も並行して行った。その結果、ERストレスを必ずしも明確に示唆するとは限らないことが示された。本研究によるN-結合型糖鎖生合成経路をレポーターとするERストレスの評価は、既存のマーカーの弱点を補完し、より定量的にERストレスを評価できる方法として、現在、米国化学会誌に投稿中である。
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