研究課題
神経細胞の発達や高度に調節される神経伝達物質のバランスには、細胞膜を構成するリン脂質であるホスファチジルコリンがリン脂質加水分解酵素(PLase)に よって水解される事が重要である。申請者らは、PRMT8がメチル化酵素活性(MTase)に加え、長年の間、小脳においては未知であった新規のリン脂質分解酵素活性 (PLase)として、神経細胞の樹状突起形成やアセチルコリンの産生にPRMT8の働きが必須であることを見出した。また、PRMT8の欠損マウスの大脳と小脳を用いたメチル化代謝産物やリン脂質代謝産物を解析した結果、PRMT8の MTase活性は大脳に、PLaseの活性は小脳で特異的に働く可能性が示唆された。申請者らはすでに、PRMT8のMTaseおよびPLaseの活性中心の配列に点変異を導入し、互いの酵素活性には影響がない変異体の作製に成功している。さらに、PRMT8が有する一酵素二活性の生物学的意義の解明のため、ゲノム編集(CRISPR/Cas9 system)を用いて1塩基を置換したMTaseとPLase特異的不活性マウスを樹立した。令和1年度は、未知であるPRMT8のMTase活性に対する内因性基質の探索を試みた。PRMT8の欠損マウス及びMTase不活性マウスの脳の全タンパク質を二次元電気泳動で分離し、抗メチルアルギニン抗体を用いた解析から、野生型コントロールより低下を示したメチル化タンパク質を単離・精製し、質量分析法(MALDI-TOF/MS)でタンパク質を同定した。現在までに、PRMT8の内因性基質の候補として神経細胞の細胞骨格を構成するタンパク質であるneurofilament light polypeptide(NF-L)が得られた。
2: おおむね順調に進展している
申請者らは、PRMT8がメチル化酵素活性(MTase)に加え、小脳では未知であった新規のリン脂質分解酵素活性 (PLase)として、神経細胞の樹状突起形成やアセチルコリンの産生にPRMT8の働きが必須であることを見出した。本研究において、PRMT8が有する一酵素二活性の生物学的意義を理解するためには、互いの酵素活性には影響がない変異を加えたマウスの作製が重要であり、PRMT8のメチル化酵素(MTase)およびリン脂質分解酵素(PLase)の活性中心の配列に点変異を導入した不活性マウスの作製に成功した。一方、MTaseに対する内因性の基質をはじめ、その生物学的意義は未だ明らかとなっていない。現在までに、PRMT8欠損マウス及びMTase不活性マウスの脳を用いて内因性基質の探索を試みた結果、神経細胞の細胞骨格を構成するタンパク質であるneurofilament light polypeptide(NF-L)が得られた。NF-Lは、神経細胞の細胞骨格を構成するタンパク質であり、細胞体や軸索、樹状突起に局在する。従って、PRMT8によるアルギニンメチル化がNF-Lの機能を調節し、神経細胞の樹状突起形成や発達に寄与する可能性示唆された。
令和1年度の結果を受け、令和2年度は、これまでにPRMT8欠損マウスやMTase 不活性マウスから得られた内因性基質の候補であるneurofilament light polypeptide(NF-L)とPRMT8の相互作用や、in vitro methylation assay 法を用いてPRMT8によるNF-Lメチル化を検証する。また、樹立したPRMT8のPLaseとMTase不活性マウスについては、コリン代謝やメチル化代謝産物の評価と共に、神経細胞の発達や脳機能の解析を行い、PRMT8が有する一酵素二活性の生物学的意義の解明を目指す。
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