研究課題
マルチ銅オキシダーゼ(MCO)は,分子内に4個の銅イオンを含む酸化還元酵素で,タイプⅠ銅で基質を酸化した電子を用いて,タイプⅡ, Ⅲ銅からなる三核銅部位で酸素を4電子還元し水を生成する反応を触媒する。MCOは,系外に活性酸素種を放出することなく分子状酸素を水にまで還元できるが,その詳細な反応機構は明らかではない。本研究では,MCOの一種である大腸菌の一価銅酸化酵素CueOと糸状菌のビリルビン酸化酵素を対象に,X線結晶構造解析,中性子線構造解析による酸素還元反応中間体の構造解析を目指している。また,進化分子工学的手法を用いて酸素還元中心近傍へ変異を導入することにより,酸素還元反応の直接制御技術を得ることも目的としている。本研究では,反応中間体の構造解析において,中間体が安定化したCueO三重変異体を作製し,軽水中で結晶化条件を検討したところ,これまでになく大きな直方体型結晶を得た。この結晶を使用したX線回折実験の結果,2.8Å分解能程度までの反射が得られ,野生型CueOの結晶構造を用いた分子置換法により位相を決定した。現在,中性子線回折実験に向け重水系での結晶化条件の検討を行っており,反応中間体構造の解明が期待される。CueOの進化分子工学では,新規の高活性化アミノ酸置換体,F210L,G304E,M305I,F310S,E476G,及びL502Vを得た。これらはいずれもタイプⅠ銅遠位に位置する活性制御部位で,野生型酵素のABTS酸化活性と比較して4倍から20倍の活性化が観察された。更に,上記L502Vをベースとする指向進化により,活性が最大57倍に増大した変異体の作出にも成功した。一部の変異体はX線結晶構造解析により高活性化の構造的要因を検討した。本研究で得られた知見は,MCOの反応制御に新たな方法論を与え,MCOの産業応用に大きく貢献するものである。
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