研究課題/領域番号 |
18K05434
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 紅 京都大学, 農学研究科, 研究員 (70401213)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / ABCタンパク質 / コレステロール |
研究実績の概要 |
一次繊毛 (primary cilia) は、我々の身体を構成するほとんどの細胞に存在する細胞膜のアンテナ様の突起構造である。一次繊毛は細胞センサーとして、血清の有無などの栄養状態、流れや張力といった力学刺激などの外部環境を感知し、細胞内部に情報を伝達する。一次繊毛の形成異常や機能不全は、多様な症状を呈する「繊毛病」を引き起こすことから、その形成機構や機能の解明は臨床的にも重要な課題である。我々は、脂質輸送に関わる複数のABC (ATP-binding cassette) タンパク質に着目して研究を行っている。 令和二年度は、コレステロールやリン脂質輸送能をもつABCタンパク質のひとつをノックダウンして一次繊毛の形成に与える影響を検討した。マウス線維芽細胞(MEF)においてこのタンパク質をノックダウンしたところ、ノックダウン細胞の一次繊毛形成率は45.2 %となり、コントロール細胞の一次繊毛形成率67.1 %より減少した(減少率約33 %)。ノックダウン細胞に標的タンパク質を再発現させると、形成率は61.4 %となり、コントロール細胞の約92 %まで回復した。一方、このABCタンパク質は、一次繊毛研究によく用いられるラット腎臓内部髄質集合管(IMCD)細胞においては内在的に発現しておらず、IMCD細胞の一次繊毛形成には関与していなかった。 また、コレステロールやリン脂質輸送能をもつ、異なるサブファミリーに属する別のABCタンパク質についても調べた。ブタ腎臓由来LLC-PK1細胞においてこのタンパク質を一過的に発現させたところ、一次繊毛の軸糸あるいは先端に局在した。とくに先端に局在する様子が特徴的であり、この局在性の意味を明らかにしようと解析しているところである。さらに、このABCタンパク質が内在的に高発現している肝臓の細胞についても、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、脂質輸送能をもつABCタンパク質が一次繊毛の形成促進あるいは分解抑制に関わることを見出したことは意義深い。一次繊毛の先端や軸糸に局在するABCタンパク質は、時間的空間的な脂質分布の変化とリンクする一次繊毛の形成、分解、機能に関与する可能性が示唆され、今後他のABCタンパク質への研究の展開が期待される。以上、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
着目しているABCタンパク質が、一次繊毛の形成あるいは分解過程のいつ、どこで発現し、血清刺激などによりその局在性を変化させるかどうかを検討する。また、同時に一次繊毛膜のコレステロール、PI(4)PやPI(4,5)P、PEなどの脂質を可視化する。MEF, IMCD, LLC-PK1細胞のほかに、ヒト網膜色素上皮由来RPE-1細胞などについても解析を行う。 また、全反射照明蛍光顕微鏡を用いて一次繊毛膜上でのABCタンパク質分子の挙動を観察する。 さらに、肝臓組織の中で一次繊毛を形成する胆管細胞cholangiocyteに注目し、胆管内腔に伸びた一次繊毛におけるABCタンパク質の働きを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和二年度は、新型コロナウイルス感染拡大のため世界的に試薬や消耗品の発注や納期にも影響が及び、また感染防止のため研究室への立ち入りが制限され、実験遂行も制限された。このため、当該助成金は、試薬や消耗品の購入のために次年度に使用する計画である。
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