研究課題/領域番号 |
18K05437
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
有馬 二朗 鳥取大学, 農学部, 教授 (80393411)
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研究分担者 |
清水 克彦 鳥取大学, 地域価値創造研究教育機構, 准教授 (90326877)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酵素の固定化 / シリカ粒子形成促進タンパク質 / グルタチオンS-トランスフェラーゼ / グラシン / 融合タンパク質 / シリカ形成 / シリカ吸着 |
研究実績の概要 |
ガラスカイメン類カイロウドウケツから見出されたシリカ粒子形成促進タンパク質“グラシン”は、シロキサン結合([-Si-O-]n)形成促進の機能を有しており、生じたシリカ/シリコーンにグラシンは埋め込まれる。また、最近になりグラシンにはシリカに対する強い吸着能を有することも明らかとなった。本研究ではこの機能に焦点を当て、高機能シリコーン素材の開発を志向した酵素の新規固定化技術の提案に繋げる基礎研究を行っている。2018年度は広く遺伝子工学ツールとして利用されているグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をモデル酵素として使用し、GSTとグラシンとの融合による「グラシンの固定化タグへの応用」について重点的に評価した。 グラシン全長(24.6 kDa)とGSTとの融合タンパク質(グラシン-GST及びGST-グラシン)はNi-NTAアフィニティーカラムによる精製が可能であり、野生型グラシンと同等のシリカ粒子形成能も保持していた。また、GST活性は全て、形成されたシリカ粒子に移行したが、シリカ粒子上のGST全活性は元の活性の50%程度であった。一方で、グラシンのシリカ吸着能を利用した固定化では、GST活性は元の活性の90%以上保持していた。 続いて、グラシンの構造の中でシリカ粒子形成の役割を担うHis-Aspリッチな領域(HD2ドメイン、5.6 kDa)に着目し、HD2とGSTとの融合タンパク質(HD2-GST及びGST-HD2)を構築した。これらの融合タンパク質も、Ni-NTAアフィニティーカラムによる精製が可能であり、全長グラシンと同等のシリカ粒子形成能・シリカ吸着能を保持していた。さらには、未精製の融合タンパク質に対してシリカ吸着を行うことで、精製も可能であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画には大きく4つの課題項目があり、1項目目として融合タンパク質による酵素固定化検討、2項目はよりシンプルな固定化タグへの最適化、3項目目は様々な有機シロキサン重合材料等を使用した生成物の素材物性検討、4項目目は様々な酵素を融合した機能素材の構築に分割している。その中で、研究実績の概要に示されるよう、2018年度の研究により、1項目目の固定化の実現、2項目目のより最適なタグ配列の獲得をクリアしている。4項目のうち2項目が終了しているため、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。また、2018年度の研究内容については、現在論文を作成中であり、Biotechnologyを主体とした国際誌に投稿する予定である。 次の課題は、様々な形状を持つシリコーン素材の創製が可能であるかどうかについて評価である。本検討についてはグラシンがシロキサン結合([-Si-O-]n)形成促進に使用できる有機シロキサン重合材料への特異性や、様々なシリコーン素材への吸着能力に依存することになる。しかし、少なくともケイ酸を使用したアモルファスシリカの形成能を有し、シリカゲルやフュームドシリカへの強い吸着を示す。したがって、2018年度の成果は4項目の検討での、シリカを主体とした様々な固定化酵素の構築と評価を可能にするものであり、様々な機能付加シリカの構築実現に向け、大きく前進したことになる。 グラシンの機能により様々なシリコーン素材が構築できるかどうかは、まだ未解明な部分が残されているほか、すべての酵素タンパク質に応用可能かどうかについての課題が残されているため、次年度では、他の酵素タンパク質との融合による固定化検討とともに、様々な有機シリコーン素材の形成能や吸着能の評価を行う予定である。これら次年度以降の研究計画も含め、現在までの進捗は当初に予定していた研究計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」と「現在までの進捗状況」に示した通り、本研究の最終目標である“様々な機能付加シリコーン素材の構築”の実現に向け、おおむね半ば手前にまで到達したところである。残されている課題は、様々な形状を持つシリコーン素材の創製が可能かどうか、多くの酵素タンパク質の固定化に応用可能かどうかであり、次年度以降は上記の解決に向けた研究が主体となる。具体的には、遺伝子工学技術を駆使したグラシンのHD領域と様々な酵素との融合、グラシンのHD領域の機能によって形成されるシリカ/シリコーン素材の物性と融合した酵素機能の評価、グラシンのHD領域のシリカ/シリコーン素材への吸着能と吸着後の融合した酵素機能の評価が課題となる。 さらなる将来の展望として、上記の評価検討で得られたデータをもとに、シリコーンの物理的形状と数多とある酵素機能とを組合せた機能付加シリコーン素材の構築を試みる。これらの研究を通し、より柔軟な使用目的に合わせたデバイスの提供、そしてセンサーやリアクターへの応用展開につなげていきたい。
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