シリカ粒子形成促進タンパク質“グラシン”は、カイロウドウケツのシリカ骨格から見出されたタンパク質で、ケイ酸のシロキサン結合([-Si-O-]n)形成を促進し、シリカ粒子を形成する。これに加え、グラシンはシリカに対して強く吸着する特質も有しており、本研究ではこれらの機能に焦点を当て、高機能シリコーン素材の開発を志向したタンパク質固定化技術の提案に繋げる基礎研究を行っている。グラシンの特徴的な3つの領域、HisとAspに富むHD領域、Proに富むP領域、HisとThrに富むHT領域が、グラシンの機能に大きく寄与することが考えられ、これまでにHD領域がシリカ粒子形成を担う領域として同定された。一方で、シリカ吸着についてはどの領域が寄与するか未解明であり、2019年度までの研究で、いずれの領域もシリカ吸着には寄与する可能性を示唆するデータが得られていた。そこで2020年度では、シンプルなシリカ固定化タグとしての利用に向け、各領域のシリカに対する吸着力の数値化(解離定数)と比較について重点的にデータ収集を行った。 2019年度に作成したグラシンの各ドメインとGSTとの融合タンパク質(HD2-GST、P2-GST、HT2-GST及びP2HT2-GST)に加え、GFPとグラシンとの融合タンパク質を使用し、pHとシリカ吸着能との関係を調べた結果、いずれのタンパク質もpH7以上でシリカ吸着能を発揮した。そこで各pHにおけるシリカに対するKd値を調べたところ、pHの上昇はKd値に大きな影響をもたらすことはない結果となった。一方で、各領域間でKd値は大きく異なり、グラシンやHD領域のシリカに対するKd値は約8nMであったことに対し、HT領域やP領域からは100倍以上のKd値が算出された。以上の結果から、HD領域はシリカ吸着のためのシンプルなタンパク質固定化タグとして利用できる可能性が浮上した。
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