研究実績の概要 |
これまでに、LMI2転写因子が種子のクチクラ形成を制御し、種子の劣化耐性に必要であることを明らかにした。LMI2と近縁なクチクラ制御因子MYB106とMYB16はそれぞれ、花器官と葉のクチクラ形成に重要な因子であり、種皮ではほとんど発現しない。これらの種子で発現しない転写因子が種子劣化を抑制できるか検証するため、MYB106, MYB16にそれぞれ強力な転写活性化ドメインVP16を融合しシロイヌナズナで発現させた。T2種子を用いて、種子の劣化試験を行った結果、MYB106-VP16, MYB16-VP16発現種子は、野生型と比較して発芽率の低下が抑えられていた。したがって、花器官タイプや葉タイプのクチクラを優先的に蓄積させる転写因子を用いた場合でも種子劣化を抑制するのに必要なクチクラの性質を付与することが明らかになった。種子劣化の抑制に寄与したクチクラ組成を明らかにするため、MYB106-VP16, MYB16-VP16, LMI2-VP16発現植物からワックスとクチンを抽出し、現在クチクラ組成を比較している。MYB106-VP16, MYB16-VP16植物のクチンの総量は野生型に比べて2~4倍に増加し、この増加は主に各種カルボン酸とポリヒドロキシ酸の増加によるものであった。MYB106-VP16とMYB16-VP16植物の間で顕著な違いは見られなかった。今後はLMI2-VP16植物の組成分析及び、抽出済みのワックスの組成分析と遺伝子発現解析を行うことにより、各種クチクラの形成機構の違いと種子劣化に与える影響を考察する。
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