研究実績の概要 |
植物の生態型には一年生、冬一年生および多年生などがある。冬一年生植物は夏に発芽し、越冬後の春に抽だい、花成誘導を行う。よって、夏から秋の栄養成長期間中の抽だいは厳密に抑制されなければならない。植物の抽だい抑制機構に関しては低分子生理活性物質の関与が示唆されているが、長距離シグナルとしての実態や移動先での作用メカニズムは不明な点が多い。本研究では葉部で生合成された生理活性物質の茎頂点への移動と移動先での生理活性を明らかとし、環境条件によって制御される植物の抽だい抑制機構を明らかとすることを目的とした。 ダイコン葉部より、2,3-dihydroxypropyl (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoateが抑制物質として単離されている。活性に必要な官能基を探るために構造活性相関研究を行なった。材料にはシロイヌナズナを用い、播種後の植物の伸長抑制効果を指標とした。この結果、母骨格に結合する炭素鎖に関して、1箇所でも二重結合があれば活性を有し、cis,trans体のいずれでも活性を有することが明らかとなった。他器官への移動を検証するための重水素ラベル体についてはラベルパターン異なる化合物を合成できた。 また、ジベレリンに対する生合成抑制効果についてはその内生量をUPLC MS/MSによって測定した。この結果、抽台抑制物質に晒されたシロイヌナズナでは全体的なジベレリン含量が下がっていることが明らかとなった。本結果は抽台抑制化合物のターゲットはジベレリン生合成の初期段階を抑制していることが示唆された。さらにプランターで育てた大根(品種:耐病そう太り)に2,3-dihydroxypropyl (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoateを一定期間葉面散布したところ、無処理の植物に比べて、抽台時期の遅延効果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標としてA-1. 重水素ラベルパターンの異なるABCの合成、A-2. ABCの葉部での生合成および茎頂部への転流、B-1. ダイコン栄養成長期、茎頂部におけるABC蓄積の必要性、B-2. 抽だいに関与するダイコン遺伝子の同定およびABCの移動先での生理活性を設定した。 A-1. 重水素ラベルパターンの異なるABCの合成、A-2. ABCの葉部での生合成および茎頂部への転流に関してはラベルパターンの異なる化合物の合成に成功した。具体的にmethyl (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoate (7)とmethyl (9Z,12Z,15Z)-octadeca-9,12,15-trienoate、(7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoic acid-d2 (10)、(9Z,12Z,15Z)-octadeca-9,12,15-trienoic acid d2、2,3-dihydroxypropyl-1,1,2,3,3-d5 (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoateを合成した。本年度は実施できなかったが、次年度にはこれらの化合物をもちいて、移動実験をおこなう。 B-1. ダイコン栄養成長期、茎頂部におけるABC蓄積の必要性、B-2. 抽だいに関与するダイコン遺伝子の同定およびABCの移動先での生理活性に関しては葉面散布実験で実験当初の仮説を支持するデータが得られた。また、抽台抑制化合物の生理活性発現に必要な生理現象にジベレリンの生合成阻害を想定していたが、これを支持することができた。本年度にRNAseq等を予定していたが、大体のターゲットをつかめたと言える。次年度に詳細な遺伝子発現の解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度合成に成功した、methyl (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoate (7)とmethyl (9Z,12Z,15Z)-octadeca-9,12,15-trienoate、(7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoic acid-d2 (10)、(9Z,12Z,15Z)-octadeca-9,12,15-trienoic acid d2、2,3-dihydroxypropyl-1,1,2,3,3-d5 (7Z,10Z,13Z)-hexadeca-7,10,13-trienoate等を用いて、葉部から地下、可食部への生理活性物質の転流を証明することを第一の目標とする。また、生理活性物質のターゲットとしてジベレリンの初期生合成ステップの阻害が想定できていることから、定量qRT-PCR, RNAseqなどによりターゲットとなる遺伝子同定する。圃場実験を進めるが、実農業に利用することを想定し、大根の不時抽台抑制、さらには小麦の穂発芽抑制にも利用可能ではと考えられるのでこの方面に関して圃場実験を行う。圃場実験に耐えうる化合物量を確保すべく実験を進めているところである。
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