研究課題/領域番号 |
18K05450
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
藤原 憲秀 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (20222268)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 天然物全合成 / プローブ分子 / 毒性発現機構解明 / 標的分子探索 / 合成供給法開拓 / マクロライド配糖体 |
研究実績の概要 |
ポリカバノシドAは、1991年にグアムで食用紅藻オゴノリが突然毒化して致死的食中毒事件が起きた際に原因毒素として藻体から単離された、マクロライド配糖体である。事件後速やかに藻体から毒素が消失し入手不能となったため、申請者による全合成で絶対立体配置が決定し(1998年)、合成品を用いた共同研究によりアグリコン部が活性中心であることが判明した(1999年)。しかし、その後に幾つかの全合成例(1999~2017年)があるにも拘らず、いまなお合成供給が難しく、致死毒性発現機構の解明が滞っている。本研究では①ポリカバノシドAと最近藍藻から単離された新規類縁体ポリカバノシドDの量的合成供給法を確立し、②基本情報としてその細胞毒性を調査し、③合成品をプローブ(探針分子)として標的生体分子を探索・同定し、④致死毒性への標的分子の関与の機構を明らかにする。ポリカバノシド類は毒素であるが、その毒性発現機構を解明することで、生命維持に重要な新たな生物学的知見が得られると期待される。2018年度には、ポリカバノシドDの上部構造について、パントラクトンを不斉原料として合成する目処がついている。 2019年度は中部テトラヒドロピラン環の合成に重点を置いたが、当初のPrins環化経路では鍵段階が進行しなかった。そのため、環化法を変更して比較的容易に6員環骨格を得る事ができたが、必要な官能基導入が困難であることが判明した。このため、さらに合成法を改訂し、上部構造と同じ合成中間体からテトラヒドロピラン環を得る方法を検討している。2019年度の終盤に新型コロナ感染症拡大防止のため研究活動が中断したが、2020年度の夏頃から研究を再開して、テトラヒドロピラン環部を完成させ、マクロラクトン部の構築とプローブ分子の構築に入る見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の計画では、ポリカバノシドDの上部・中部・下部の構造構築の後、上部と中部の連結を予定していた。しかし、中部のテトラヒドロピラン環の構築の最適化に時間がかかり、連結とその後のマクロラクトン構築に遅れが出ている。新型コロナの感染拡大防止のため大学の研究業務が停止していることも遅れの一因である。今後、中部の合成法を見直して確実に目的物が得られる方法に切り替えて検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の具体計画は次のとおり。(1)ポリカバノシドDの中部セグメントの構築を完了する。(2)上部構造と中部構造を連結し、マクロライド構造を構築し、側鎖のトリエン構造を導入する。(3)この段階で、毒性が発現するはずであり、それを共同研究による細胞毒性試験およびマウス毒性試験により確認する。(4)標的と推定されている神経系の細胞の破砕物の中から、親和性を持つ生体分子を探索するため、マクロライドトリエン部分のアフィニティークロマトへの導入を検討する。(5)マクロライドトリエン部分に下部糖鎖を導入し、ポリカバノシドDの全合成を完了する。 ポリカバノシド類では初めての試みとして、実際に標的分子を探索・同定して、標的生体分子の機能の面から、毒性発現機構の解明にアプローチしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2019年度に生じた次年度使用額は、経費の節減の結果生じた。 (使用計画) 2019年度に生じた次年度使用額は、次年度の消耗品費と合わせて試薬および精製用シリカゲル等の消耗品の購入に使用する。
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