研究実績の概要 |
海藻毒ポリカバノシドAは、幾つかの全合成例があるものの、致死毒性発現機構の解明が停滞している。本研究では①ポリカバノシドAと最近藍藻から単離された新規類縁体ポリカバノシドDの量的合成供給法を確立し、②基本情報としてその細胞毒性を調査し、③合成品をプローブ(探針分子)として標的生体分子を探索・同定し、④致死毒性への標的分子の関与の機構を明らかにする目的で研究を展開した。致死毒であるポリカバノシド類の毒性発現機構を解明すると、生命維持に重要な新たな生物学的知見が得られると期待される。前年度までに、(R)-パントラクトンを不斉原料としてポリカバノシドDの上部構造を合成している。また、中部テトラヒドロピラン(THP)環の合成については、検討の末当初計画を変更し、上部構造と同様に(R)-パントラクトンを不斉原料とする新経路を立案した。最終の2020年度の初頭は新型コロナ感染症拡大防止のため研究活動が中断したが、夏頃から大学の研究が再開できたため、中部THP環の合成を進めた。C1-C5フラグメントをパントラクトンから誘導後、C5位のアルデヒドに細川が開発した不斉ビニロガス向山アルドール反応を適用したところ、興味深いことに本アルデヒドでは報告とは逆の立体選択性が発現することが判明した。これにより、C5位の立体化学を整えつつC6-C9フラグメントの骨格炭素を一挙に導入することが可能となった。得られたα,β-不飽和アミドに対し種々の反応条件でヘテロMichael反応を検討したが、塩基性条件下ではC7位の立体化学は混合する結果となった。一方、2価のパラジウムを触媒として閉環するとC7位が望みの立体化学で構築できることが判った。これにより、新たな中部THP環の立体選択的合成法を開拓できた。当初計画を大幅に遅れて助成期間を終えるが、ポリカバノシドDの全合成に寄与する重要な知見が得られた。
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