研究課題/領域番号 |
18K05460
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
谷本 裕樹 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (00581331)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 天然物合成 / シグマトロピー転位 / インドールテルペン / Diels-alder反応 / クロスカップリング |
研究実績の概要 |
入手容易な出発原料として(R)-カルボンを用い、全合成研究をスタートした。当初は、原料の立体選択的な1,4-還元を行っていたが、還元後の生成物が購入可能であったため、実際に合成するよりも効率的と判断し、途中から原料をジヒドロカルボンへと変更した。ジヒドロカルボンのケトン部位をビニルトリフレートへと変換後、一酸化炭素と水もしくはメタノールとのパラジウム触媒によるクロスカップリングにてカルボン酸・エステルへの誘導を検討したところ、適切なリガンドを見出し、望みの骨格へと変換できた。その後、イソプロペニル基のオレフィン異性化により4置換アルケンへと変換し、目的とする側鎖部2か所の同時導入のための前駆体を合成した。 しかし、当初計画していたDiels-Alder反応による側鎖部導入は困難で、どのような活性オレフィンを用いても目的とする環化生成物を得ることはできなかった。そこで計画を変更し、不飽和エステルに対する1,4-付加とアルドール反応によって、炭素鎖の導入を試みた。しかし、これも1,4-付加から全く反応が進行せず、炭素鎖の導入ができなかった。 このことからさらに予定を変更し、エステルの還元によって得られるペンタジエニルアルコールのClaisen転位により、周辺の立体環境を利用することで、望みの立体化学を有する非常に込み入った第3級炭素中心を構築することとした。種々の検討の結果、Eschenmoser-Claisen転位のみが目的とする転位成績体を与えることを見出し、望みの立体化学を有する異性体を主生成物として得ることに成功した。その後、アミド部位の還元とシアノ基の導入により、第4級炭素中心構築の前駆体の合成を達成した。 一方最終年度の複素環誘導体合成に関し、アジドやジアゾ、オキシムを用いた複素環変換やワンポットでの多成分連結法を確立し、誘導体合成に向けた準備検討を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
入手容易な光学活性原料から、クロスカップリングを経て基質を誘導するところは順調に進んだ。ところが、4級炭素構築に際し当初はDiels-Alder反応による構築を計画していたが、多くの検討にもかかわらず反応は全く進行せず原料回収に終わった。鍵として想定した基質が予想以上に立体障害が大きく、また反応性も非常に低いことが分かったことから、合成計画を大きく変更し、1,4-付加とアルドール反応による炭素鎖導入を行った。ところがこれも全く反応せず基質を回収するのみであった。このように、想定していなかった基質の不活性さのため、大きく戦略を練り直すこととなった。結果として、現在までにClaisen転位を用いることで、非常に込み入った第3級炭素中心を、望みの立体異性体を主生成物として得ることに成功したことから、全合成に向けた大きな山は越えたといえる。しかしこの解決に多くの時間を費やし、初年度での全合成の達成には至らなかったことからこの評価とした。一方、複素環誘導体合成については別途複素環多成分連結法を見出し、最終年度に実施を予定している多数の誘導体合成に向けた前段階の検討は進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
天然物骨格に残る第4級不斉炭素中心の構築をまず行ったのち、Fischerインドール合成法によって天然物スアベオルインドール類の全合成を達成する。その後は生合成仮説に則った変換法により、類縁天然物へと導く予定である。スアベオルインドール類からの環化による類縁天然物への誘導は、生合成仮説と併せて類縁骨格を持つ誘導体の合成報告があることから、速やかに完了できると考えられる。したがって、スアベオルインドール類の全合成の達成が今年度最も注力する検討課題となる。第4級炭素中心は、近年報告されたラジカル的なヒドロアルキル化を用いることで達成を目指す。また、Fischerインドール法による天然物複素環誘導体の合成が可能かどうかも併せて検討し、最終年度での誘導体合成への準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況から、当該年度の予定していた学会発表を1件行わなかった。そのため、学会参加費ならびに旅費、日当相当分の金額を次年度での学会発表に対して使用することとした。
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