本研究では、炭化水素(テルペン)部位と芳香環(複素環)部位で構成される天然物の複素環部位を様々な発光基に変えた生物活性化学プローブ誘導体の創出による創薬研究の進展を目指すもので、天然物とその人工誘導体の効率的合成とそのための分子変換連結技術の開発を中心に行った。 様々な誘導体合成のためには、共通骨格となるテルペン骨格を迅速かつ大量に合成生産する必要がある。そこで、容易に入手可能な光学活性分子を出発原料とした合成経路の確立を目指した。当初はカルボンを出発原料とし、遷移金属カップリングなどを経由して鍵となる中間体化合物の合成を行っていたが、高額なシリカゲルカラムによる分離精製を毎工程必要とし、また長い総反応時間や大スケール化が困難だった点からも効率的な合成とは言えなかった。これを改善すべく、原料をプレゴンに変更し、高価な遷移金属を用いない経路を採用することで、合成にかかる時間をこれまでの1/10である3時間へと大幅に短縮、シリカゲル精製をわずか一回に押さえることに成功した。その後はクライゼン転位ならびに増炭素を経て、目的とするスアベオリンドール天然物の共通骨格の合成を達成した。転位の選択性はDFT計算によって明らかにし、最終年度にてその成果を論文発表した。 これと併せて、誘導体合成に必要な研究も行った。天然物の複素環部位を、完全非天然のケイ素誘導体に変更する際の知見を得るため、生物活性ケイ素分子と、炭素では不可能な超配位構造体の合成と構造解析を報告した。また、作用リガンドの解明に向けたプローブの更なる機能化を目的とし、立体遮蔽に頼ることなく位置を精密に制御して分子連結するアジドクリック法を確立し、最終年度にてその論文発表を行った。 以上、最終的なプローブ合成にはまだ時間がかかるものの、その迅速かつ高機能な分子の創出にかかる多方面の化学技術を確立を達成することができたと言える。
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