研究実績の概要 |
糖鎖は免疫や炎症,癌の転移など生体内で重要な役割を担っており,その機能解析には化学合成が不可欠である.糖鎖合成の中心課題であるグリコシル化の立体制御には隣接基関与を利用する方法が有効だが,研究開始時点では「隣接基関与基といえばアシル基」が常識で,他の保護基の開発例はあまりなかった.「アシル基以外に隣接基関与する保護基はないのか?」この問いに応えるべく本研究では,申請者らが独自に開発した「2-ナフチルメトキシメチル(NAPOM)基」およびその類縁体であるアルコキシメチル基を隣接基関与基として用い,新規立体選択的グリコシル化法を開発することを計画した.具体的には以下3つの段階的目標を達成すべく研究を推進した. 1. 2位に種々アルコキシメチル基を有するグルコース誘導体の選択的グリコシル化の開発 2. 様々な糖受容体および糖供与体を用いた本反応の適用範囲の調査 3. NAPOM基を隣接基関与基として用いたシンポノシドの全合成と構造確認 最終年度前年までに,2位にメトキシメチル(MOM)基,ベンジルオキシメチル(BOM)基,およびNAPOM基を有するグルコースおよびガラクトースドナーとさまざまなアクセプターの1,2-trans選択的グリコシル化に成功し,上記1および2を達成した.3.に示したシンポノシドの全合成は合成途中で生じた問題により達成できなかったため,標的分子を別の天然物に変更した.2-O-BOMドナーを用いてグリコシル化反応を行ったところ,2つの天然物の全合成に成功し,開発したグリコシル化反応を天然物合成に応用するという大枠は達成できた. 一方で,計画時には予想していなかった2-O-アルコキシメチルドナーの高い反応性を利用し,ワンポット二重グリコシル化反応の開発にも成功した.またその中で固体試料を反応容器を開けずに(空気や水の混入を防ぎながら)添加できる装置の開発にも成功した.
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