研究課題/領域番号 |
18K05468
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
清水 伸泰 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 教授 (30434658)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コナダニ / 脂質代謝 / 生合成 / Baeyer-Villiger酸化 / ギ酸エステル / 炭化水素 |
研究実績の概要 |
無気門亜目ダニ(コナダニ)はフェロモンや防御物質などと共に、炭化水素やギ酸エステルなど直鎖状の脂肪族化合物を体外に放出する。昆虫の体表を覆う高級炭化水素群を主成分とするクチクラワックスに比べると、コナダニ由来のものは炭素鎖長が短いのが特徴である。テルペンや芳香族化合物など脂肪族化合物以外にもギ酸エステルが認められることから、外分泌腺の中では他の生物種にはないコナダニ特有の代謝機構が働いていると考えられる。 本年度はその中でもギ酸ネリルの生合成に注目し、昆虫の報告例をもとにギ酸の生合成の検証を行った。コナダニの飼育培地に安定同位体ラベル化アミノ酸を餌に混合して摂食させた。その結果、投与したアミノ酸はホルミル化テトラヒドロ葉酸の合成に関与することで、ギ酸の前駆体となっていることが明らかになった。さらに、アミノ酸のカルボキシ基もギ酸の合成に利用されていることが新たに示唆されたことから、昆虫には見られないギ酸の合成経路がコナダニに存在すると考えられる。 脂肪族ギ酸エステルの生合成には新規なBaeyer-Villiger 酸化が関与することが示唆されている。これまでの研究で本酵素の同定を目指したトランスクリプトーム解析により生合成遺伝子群を絞り込んでいる。候補遺伝子のクローニングには成功しているため、大腸菌と酵母を用いた異種発現の条件検討を行っている。それと並行して、酵素活性を追跡しながら各種クロマトグラフィーによる粗酵素の精製も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ギ酸ネリルの生合成については、研究当初に立てた仮説の検証が順調に進んでいる一方で、合成経路をさらに詳細に調べるために必要な同位体標識化合物の準備や、トレーサー実験を行うためのコナダニの飼育条件の検討などに想定より時間がかかっている。トレーサー実験に用いる標識化合物がダニの繁殖環境に悪影響を及ぼす場合があり、今後、予備実験の結果次第で試験方法を変更する可能性がある。 Baeyer-Villiger 酸化酵素のアミノ酸配列の決定を目指して、粗酵素の精製を進めている。その方法に加えて、トランスクリプトーム解析により生合成遺伝子群を絞り込んで酵素を同定する方法も検討している。コナダニのトランスクリプトーム塩基配列と既知の微生物由来Baeyer-Villiger 酸化酵素の配列情報から、配列類似性を示すタンパク質を絞り込んだ。候補遺伝子のクローニングには問題はないものの、大腸菌による異種発現が思うように進んでいない。大腸菌を酵母に替えるなど、発現条件の大幅な変更が必要になるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
コナダニへの同位体標識化合物への取り込み実験では、市販されていない標識化合物を用いる必要が出てきたため簡便な合成法を確立する予定である。標識化合物を投与した後にコナダニの繁殖等に悪影響がないことを慎重に確認した上で、トレーサー実験を実施する。タンパク質の発現では、当学科内に酵母を扱える研究者が在籍しているため、知識や技術等のアドバイスを受けながら、必要であれば連携して研究を進める。粗酵素を用いた活性評価法が確立できたため、今後はさらに硫安による塩析やゲル濾過、各種クロマトグラフィーによる精製を進めて、アミノ酸配列の決定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
比較的高価な同位体試薬や有機合成試薬、分析・精製用のGC、HPLCカラムが所属機関の公費および他の研究助成金を使って購入できた。またコロナ禍により参加予定であった国際学会が不開催となったことや、年間を通して研究活動が制限されたことにより、消耗品の購入が想定以上に減った。これらの繰り越した分は、論文投稿費用、委託費、人件費などに切り替えて使用する予定である。
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