無気門亜目ダニ(コナダニ)が分泌する脂肪酸由来化合物の代謝機構に注目し、有機化学的手法を用いた生合成研究を展開してきた。リノール酸とオレイン酸を原料とする天然物として希有な2種のギ酸エステルに対して13C標識化合物によるトレーサー実験により、どの生物種からも未発見のBaeyer-Villiger 酸化酵素の存在を実験的に証明した。コナダニの二次代謝物の生合成に深く関与する新規なBaeyer-Villiger 酸化酵素の同定を目指した。大量繁殖させたコナダニから粗酵素液を調製して、遠心分離法によって得た沈殿画分に酵素活性が認められたため、Triton X-100を添加して酵素を可溶化した。これらは膜タンパク質および核タンパク質である可能性が示唆された。現在、硫安による塩析と各種クロマトグラフィーによる精製を進めており、アミノ酸配列の決定を行う。目的の酵素を同定する別のアプローチとして、トランスクリプトーム解析を行った。本種ダニのようにゲノム配列の分かっていない非モデル生物でもde novo RNA-seq を行うことで、RNA分子の情報を網羅的に調べることができる。ダニのトランスクリプトーム塩基配列の情報をもとに既知のBVMOと配列類似性を示すタンパク質を検索したところ、6種のタンパク質が特有のBVMOモチーフ配列と2カ所のRossmanモチーフ配列をもつことが明らかとなった。なお、近年、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)もBaeyer-Villiger 酸化を触媒するものが報告され、BVMOと類似のモチーフ配列をもつことが分かっている。異種発現系により候補遺伝子の酵素機能を調べるため、ダニからmRNAを抽出し、cDNAを合成後、これをテンプレートとして候補遺伝子をクローニングした。
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