本研究では、Clostridium botulinumの生産する蛋白性神経毒素(BTX)と各種合成糖脂質との相互作用を検証することを目的としている。昨年度までに、GT1b-TOA、GM1-TOA、Lac-TOA、Glc-TOAの各糖脂質誘導体を金表面に固定化を行い、これらの検知チップを用いて、単一分子量(300kDa)の毒素実剤BTX/Eについて、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)による結合評価を行った。又、単一分子量(51kDa)の神経毒素重鎖(BTX/A/Hc)を用い、GT1b-TOA、GM1-TOA、Lac-TOA、Glc-TOAとの結合相互作用について検証した(TOA:リポ酸)。 しかし、当該毒素重鎖(BTX/A/Hc)は、タンパク安定化のため過剰のラクトースを含有していたため、結合が阻害された可能性がある。そこで本年度は、遠心限外ろ過フィルターにより、ラクトース除去したBTX/A/Hcを用い、Glc-TOA、Lac-TOA、GM1-TOA、GT1b-TOAを固定化した各検知チップについて結合再評価を行った。 30MHz QCMにおいて、250ngのBTX/A/Hc(Lac不含)注入時、GT1b-TOA、Lac-TOAでは、104Hz、87.5 Hzの大きな周波数減少が見られた。ラクトースを除去することで、BTX/A/Hc がLacチップに結合することが明確になった。Glc-TOAでは、28.4Hzの周波数減少があった。一方、GM1-TOAでは、周波数減少は見られなかった。ヘマグルチニン活性を持たないHcにおいて、GT1b、Lac、Glcに対して明確に結合したことから、Hcの結合部位はこれらの糖脂質を認識して結合したと考えられる。本成果は、GT1bについては従前の報告通りの結果であったが、Lac、Glcについては結合しないという報告があり、興味ある知見を得た。
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