研究課題/領域番号 |
18K05470
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
川本 恵子 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (20360977)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細菌 / サルモネラ / VBNC / 食中毒 / 発現解析 |
研究実績の概要 |
細菌は、乾燥、高塩濃度、飢餓などのストレスに曝されると、生きてはいるが培養できない(viable but non-culturable, VBNC)状態へと移行する。VBNC状態の細菌は、通常培地では増殖しなくなるためコロニーを形成しない。しかしながら、高い生存率を維持し、ひとたび動物やヒトの体内に侵入すると、このような「休眠」状態から回復して病原性を発揮する可能性がある。本研究では、浸透圧ストレスにより速やかにVBNCへ移行するサルモネラ株を用いて、VBNC状態および定常時の分子プロファイリングを明らかにすることを目的としている。定常時でVBNC時、あるいは蘇生時で発現に違いが見られる場合、それらの分子の意義について検討する。 前年度はディファレンシャル2次元電気泳動で定常期とVBNC状態の両群間で2倍以上の発現差があり、安定した再現性を示すタンパク質を調べ、定常期に比べVBNC状態で発現増加していたタンパクは11種類、発現低下していたタンパク質は2種類を特定した。今年度はこれらの発現が実際に変動しているかどうかを定量PCRにより調べ、それぞれの機能により分類した。ABCトランスポーターをコードする遺伝子はいずれもVBNC状態にて発現増加していた。ABCトランスポーターは細菌からヒトまで様々な細胞膜に存在し、外部からの栄養源の取り込みや、細胞の浸透圧維持、老廃物や毒性物質の排出などに関わる。VBNC状態への移行により、菌の代謝経路が変わり、老廃物の排出に積極的に関与しているのかもしれない。また、酸化ストレスに対する抵抗性に関係するsodAの発現が高かった。また、VBNCではYneAの発現も上昇していた。YneAは枯草菌のSOS反応時に細胞分裂阻害分子として報告されている。サルモネラのVBNC状態においても菌の分裂を阻害する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
途上国でのVBNC菌の疫学調査がコロナ禍のため実施できなかった。一方、VBNC状態では定常期と異なる遺伝子およびタンパク発現が認められることを明らかにし、細胞分裂や増殖に関わる分子を同定できた。以上の理由から進捗状況をやや遅れているとした
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今後の研究の推進方策 |
R2年度に発見できたVBNC状態での高発現分子に関して、これらの分子がVBNCの誘導や維持にどのような役割を持つのか、遺伝子発現の検討や欠損株を用いた検討により分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での疫学調査が実施できなかったこと、および、一部の消耗品については別予算から支弁することができたため、次年度使用額が生じた。このため、次年度は海外での調査計画を見直し、今回新たに見つかった VBNC関連分子の機能解明を行う。また,英語論文についての校正費は今年度末までに投稿準備が完了しなかったため,計上しなかった。
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