研究実績の概要 |
小笠原父島では、バニラ植物は5月に開花・受粉後、バニラグリーンビーンが約7ヶ月間生長し収穫となる。バニラビーンの生長段階およびキュアリング経過中の成分分析と酵素活性測定を行った。先ず、受粉後6ヶ月目のバニラグリーンビーンのディスクにラジオアイソトープで標識した14C-バニリンを吸収させ、バニリン配糖体への変換の様子を調べた。その結果、6時間後には約80%の高変換率となり、生体中では配糖化を触媒するUDPG-トランスフェラーゼが非常に効率よく働いていることが分かった。バニラビーンからバニリン配糖体とバニリンをアセトンで抽出し、HPLCで定量分析するとともに、抽出残渣(アセトンパウダー)中のバニリンの生成(生成経路:フェルラ酸→バニリン→バニリン配糖体→バニリン)に関わる3種類の酵素(フェニルプロパノイド-2,3-ジオキシゲナーゼ、UDPG-トランスフェラーゼ、グルコシダーゼ)の活性を測定した。生長段階におけるバニリン配糖体含量は7ヶ月目には最大になり、約1.8g/100g新鮮重量であった。24週間のキュアリングでは、グルコシダーゼの作用によりバニリン配糖体の加水分解が起こりバニリン含量は約0.5g/100g新鮮重量であった。バニラグリーンビーンから酵素を抽出後、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによりUDPG-トランスフェラーゼを部分精製し基質特異性を調べた結果、バニリン(100%)および4-ハイドロキシベンズアルデヒド(84%)に対して配糖化活性があった。 小笠原父島のバニラ植物栽培農家では、収穫したバニラグリーンビーンのキュアリングを実施して、当初の目標通りに2020東京五輪の年に『小笠原バニラビーンズ』の販売を開始した。小笠原バニラビーンズを用いたクッキーも試作し高い評価を得ている。今後もキュアリング方法やバニラビーンズの利用法を改良していく予定である。
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