乳中には抗菌タンパク質や乳オリゴ糖が豊富に含まれており、乳児期の腸内細菌叢形成に大きな影響を与えている。また一部の乳成分が乳児腸管を構成する細胞に直接作用することにより生理機能を発揮すると考えられているが、これらがどのようにして消化能力の未発達な乳児により吸収され、生理機能を発揮しているかの分子メカニズムは解明が進んでいない。乳児腸管は大人型腸管とは異なり経細胞輸送により大型分子を直接体内に取り込む性質を持つことが古くから知られており、主に形態学的解析により乳児型腸管は大人型腸管とは異なるエンドサイトーシス機構が存在し、細胞内輸送と細胞内消化が活発であることが示唆されている。本研究では乳に豊富に含まれる多機能タンパク質ラクトフェリン(LF)に着目し解析を行なっている。これまでにマウス乳児消化管をモデル系として用い、LFの消化と吸収について、生化学的および組織学的解析を行っている。マウスの乳中にはLFとアミノ酸配列の類似性が高いトランスフェリンが多く含まれているため、LFのみを特異的に検出できる抗体の調製をおこなった。乳児期マウスでのLFの酵素消化は限定的で30-50kDaの断片として腸管内に残ることを明らかとした。この分解断片は、離乳後の腸管では生成されなかった。乳児腸管発達に伴う細胞内プロテアーゼの相対発現変化を解析したところ、複数のカテプシンが乳児期で高発現していたが、乳児期特異的LF断片は腸管上部の管腔内で生成されており、LFの限定分解が起こる部位については更なる解析が必要である。一方組織学的解析により、生後直後と離乳近くの腸管では、腸上皮細胞によりエンドサイトーシスされたLFの局在に違いが見られ、生後の腸管発達に伴うLF吸収の変化を示唆する結果が得られた。そこで、乳児期の発達に伴う腸管組織の遺伝子発現と腸内細菌叢の変遷を解析した。
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