大腸粘液層の脆弱化は大腸がん発症に関与することから、粘液層を強固に保つことが大腸がん予防において肝要である。本課題では、転写抑制因子であるBTB domain and CNC homolog 1(Bach1)に着目し、大腸での粘液分泌機構におけるBach1の機能を明らかすることを目的とした研究をおこなっている。本成果をもって、Bach1を粘液分泌の活性化を起点とした大腸がん予防における新たな分子標的として位置づけることを目指す。昨年度までの成果として、Bach1欠損マウスの大腸ではムチン産生を担うゴブレット細胞が増加することを見出した。しかしながら、糞便中のムチン含量に関しては野生型マウスと同程度であったことから、ムチン分泌経路に異常が生じている可能性が示唆された。 令和2年度では、Bach1欠損に伴うゴブレット細胞の増加に関する作用機序として、ゴブレット細胞の分化に関わるサイトカインであるインターロイキン-13(IL-13)に着目し、Bach1欠損に伴うIL-13の発現変化について、マウスを用いたin vivo試験ならびにヒトT細胞様株であるJurkat細胞を用いたin vitro試験を実施した。in vivo試験においては、腸間膜リンパ節および大腸粘膜固有層より免疫細胞を単離し、主なIL-13産生細胞である2型ヘルパーT細胞および2型自然リンパ球の存在量を解析した。その結果、腸間膜リンパ節および大腸粘膜固有層ともに、Bach1欠損に伴う有意な変化は観察されなかった。また、Jurkat細胞を用いた解析の結果からも、Bach1遺伝子のノックダウンに伴うIL-13の発現変動は観察されなかった。つまり、Bach1欠損に伴うゴブレット細胞増加に関してIL-13は関与しないと考えられる。また、ムチン分泌異常の可能性に関しては、マウス糞便よりムチンの粗抽出をおこない、その性状について解析した。また、ex vivo腸管潅流モデルの構築をおこなった。結果として、Bach1欠損に伴いムチンの糖鎖修飾に変化が生じる可能性が示唆された。
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