研究課題/領域番号 |
18K05476
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
山下 広美 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (70254563)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酢酸 / 骨格筋 / GPR43 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、酢酸ならびにGPR43アゴニストによるGPR43活性化を介したAMPKの活性化ならびにエネルギー代謝関連因子の動態解析、またそれら因子の細胞内局在について解析し、酢酸によるGPR43を介した骨格筋の脂質代謝改善ならびに加齢による骨格筋の代謝異常改善の可能性について検討した。 細胞内のカルシウム濃度が増加すると、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼであるCAMKKを活性化させAMPKのリン酸化および活性化が引き起こされると共に、カルシニューリン/NFATc1経路が活性化され筋線維の遅筋化が促進すると考えられる。GPR43のアゴニストならびに酢酸を用いて、GPR43の作用によるAMPKのリン酸化、ミオグロビン、MEF2A、PGC1a、NFATc1遺伝子の発現など、酢酸の作用でこれまでに観察されている細胞内分子の活性化を解析した。酢酸およびGPR43のアゴニストによりL6筋管細胞内のカルシウムレベルが上昇すると共に、ミオグロビン、MEF2A、PGC1a、NFATc1の遺伝子発現およびタンパク質発現が増加した。またAMPKのリン酸化も増加した。GPR43のsiRNAによりGPR43をノックダウンすると、酢酸のそれらの作用は消去された。また細胞内カルシウム放出に関わるPLCを阻害すると酢酸およびアゴニストの刺激によるカルシウム放出が阻害されると共に、AMPKのリン酸化も阻害された。これより、酢酸は骨格筋細胞においてGPR43を介して細胞内カルシウムレベルを増加させ、AMPKの活性化およびエネルギー代謝関連因子の発現を増加させることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究において、酢酸が骨格筋細胞においてGPR43を介して細胞内カルシウムレベルを増加させ、AMPKの活性化およびエネルギー代謝関連因子の発現を増加させることを示した。概ね計画通りに研究は進んでいるが、GPR43のノックダウンによるミトコンドリアへの影響については検討できていないため、令和2年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で酢酸が骨格筋細胞においてGPR43を介して細胞内カルシウムレベルを増加させAPMKを活性化させる作用については明らかにできた。そこで、細胞内のミトコンドリア機能への酢酸の関与がGPR43を介したものであるかについて、GPR43siRNAによりノックダウンさせた細胞を用いて解析する。次にGPR43を介した高齢動物の骨格筋委縮やエネルギー代謝異常に対する改善効果について検討するために、若齢から高齢に至る過程におけるGPR43の骨格筋における発現動態の解析、継続的な酢酸摂取がGPR43の発現に及ぼす影響、それに関連した骨格筋特異的因子群の解析および骨格筋特異的転写因子の細胞内局在解析を行い、骨格筋におけるGPR43の役割、ならびに酢酸によるその活性化について検討する。8ヵ月齢(32週齢)のSD系雄性高齢ラットを2群(水群および酢酸群)に分けて蒸留水または酢酸溶液を週5日間胃腔内に継続的に投与しながら56週齢まで飼育する。その後解剖し、速筋として腓腹筋、遅筋としてヒラメ筋を採取し、採取したそれぞれの組織からRNAを抽出して、筋線維特異的タンパク質、および加齢に関わる因子の発現と共にGPR43の発現を解析し、動物組織におけるGPR43の発現変化について筋管細胞の結果と比較解析する。またミトコンドリア特異的遺伝子としてシトクロームcオキシダーゼおよびコハク酸脱水素酵素遺伝子の発現、またMEF2AおよびPGC1aなどミトコンドリア合成に関連した遺伝子発現、タンパク質発現および細胞内局在についても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品等の低価格時期の購入と合理的な使用計画により節約できた。また予定していた論文投稿が3月に完了できず、次年度使用額が生じた。
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