研究課題/領域番号 |
18K05480
|
研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
服部 一夫 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (10385495)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 腸管オルガノイド / デオキシニバレノール / ニバレノール / 幹細胞 / 基底膜側 / タイトジャンクション / アクチン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、腸管オルガノイド(三次元的に生体外で作られた腸管:外側は基底膜側、内側は管腔側の構造)を用いて、(1)腸管に影響を引き起こすカビ毒のデオキシニバレノール(DON)とニバレノール(NIV)が、腸管の幹細胞や、タイトジャンクションやトランスポーターに対する影響を調べ、これまでのin vitro系の結果と比較し、当該オルガノイド評価系の妥当性を検討する、(2)オルガノイド評価系の結果と当該カビ毒を投与したマウスの腸管における変化の結果を比較検討することである。これにより、DONやNIVの腸管の幹細胞に与える影響といった新規の情報を提示するだけでなく、腸管オルガノイド評価系の有用性を示し、動物に替わる新たな安全性評価系の構築につなげたい。本年度は、主に基底膜側からの暴露の影響を調べた。その結果、DON、NIVともに1 uM以上の濃度で、腸管オルガノイドの細胞生存率を有意に低下した。また、DONは1 uM以上、NIVは0.05 uM以上の濃度で、腸管オルガノイドの増殖活性を低下した。さらに、Lgr5-EGFPマウスから調製した腸管オルガノイド(幹細胞に由来するLgr5を有する細胞が蛍光を発する)を用いて当該カビ毒を添加後、Lgr5に由来する蛍光をタイムラプスで追跡した結果、DON(0.1 uM)で18 h後、NIV(0.05 uM)で15 h後に蛍光強度の低下が認められ、幹細胞に負の影響を及ぼすことが示唆された。さらに、DON(1 uM)においてはタイトジャンクションに関わるZO-1や細胞骨格に関わるアクチンの低下、それらに起因するであろう物質透過性の増加が認められた。以上より、DONおよびNIVは細胞毒性を示した濃度よりも低い濃度において幹細胞に負の影響を及ぼすこと、DONがタイトジャンクションや細胞骨格に影響を及ぼし、物質透過性を増加させることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定は、デオキシニバレノール (DON) およびニバレノール (NIV) を腸管オルガノイドに添加し、基底膜側からの暴露の影響を調べることであった。具体的には、C57BL/6マウスから回収した腸管のクリプトをマトリゲルに包埋し、オルガノイド培養を行い、培養から3日目にDONあるいはNIVを培地に添加し、24時間後にオルガノイド自身の増殖活性 (BrdU assay)、幹細胞への影響 (Lgr5-EGFPマウス (幹細胞マーカーのLgr5が発現する細胞がEGFPという蛍光タンパク質で標識されるマウス) から調製したオルガノイドを用いて蛍光強度の変化を調べる)、分化細胞 (内分泌細胞、杯細胞、上皮細胞、パネート細胞など) への影響 (各マーカー分子の遺伝子発現をリアルタイムRT-PCRで測定、あるいは各分化細胞のマーカー分子を蛍光免疫染色する) を調べることであった。また、DONあるいはNIVに暴露させた腸管オルガノイドのタイトジャンクションやトランスポーターに関わる因子の遺伝子やタンパク質の発現変化を、リアルタイムRT-PCR、ウエスタンブロッティング、切片の免疫染色により解析することも予定していた。DONにおいては増殖活性、幹細胞や分化細胞への影響、タイトジャンクションやアクチンへの影響を調べることができたが、NIVでは増殖活性と幹細胞への影響を調べた段階にとどまっている。しかし、手法はおおむね確立できており、DONとNIVともに幹細胞に負の影響があること、DONがタイトジャンクションやアクチンに影響して物質の透過性を亢進することが示唆されており、一定の成果が示せていると考え、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、管腔側からのDONおよびNIVを暴露させた場合、幹細胞にどのような影響があるのかを調べる。腸管オルガノイドは、外側が基底膜側、内側が管腔側という特徴を有しているため、管腔側からの暴露を模倣するためには、マイクロインジェクションが必要となる。マイクロインジェクション技術は確立しているが、定量的に腸管オルガノイドにインジェクションする手法がまだ確立できていない。すなわち、腸管オルガノイドの内側の体積がオルガノイドにより異なることから、インジェクション後に希釈程度が異なり、暴露濃度に違いが生じるためである。しかし、このポイントに関しては、Yokoiらの手法 (Scientific Reports (2019)9:2710) を導入することでクリアできると考えている。この手法を確立できれば、次年度の計画である管腔側から当該カビ毒を暴露させた場合の腸管オルガノイドの増殖活性、幹細胞ならびに分化細胞 (内分泌細胞、杯細胞、上皮細胞、パネート細胞など) への影響を明らかにできると考えている。また、初年度で予定していたDONあるいはNIVに暴露させた腸管オルガノイドのタイトジャンクションやトランスポーターに関わる因子の遺伝子やタンパク質の発現変化や、当該カビ毒を暴露させた後の物質の透過性の評価については十分ではないため、次年度にあわせて評価していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
以下の2点が考えられた。(1)試薬類が高価なため、できるだけ節約していたこともあり、予想していたよりも若干試薬の使用が抑えられたこと、(2)本年度、学会発表には至らなかったため旅費を使用しなかったこと。次年度使用額に関しては、次年度、マイクロインジェクションを初めて行うため、マイクロインジェクションに関わる試薬・器具に充当したいと考えている。
|