研究課題/領域番号 |
18K05481
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
高橋 信之 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50370135)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 食後高脂血症 / 血中中性脂肪濃度 / 消化管 / 脂肪酸酸化 / PPAR / 魚油 / 炎症 |
研究実績の概要 |
動脈硬化性疾患を予防・改善するためには、その発症リスクとして空腹時血中脂肪濃度よりも重要な食後高脂血症を改善することが有効である。これまでに申請者は、魚油含有DHAが腸管上皮細胞のPPARαを活性化することで食後高脂血症を改善できること、同じ魚油に含まれるEPAには同様の作用が認められないことを明らかにした。しかし近年、魚油中でDHA・EPAはリン脂質体など様々な形態で存在し、そうした存在形態によって抗炎症作用などの生理作用に差が生じることが示唆されている。そこで本研究では、なぜDHAとEPAとが食後高脂血症改善作用に違いをもたらすのか、また魚油中での存在形態の違いにより食後高脂血症改善作用に差が生じるのかという二つの問題を、PPARα活性化能と抗炎症作用に着目し解決することを目的とする。 これまでに細胞レベルでDHA・EPAの抗炎症作用を評価するため、炎症時に活性化される転写因子であるNF-kBのルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定導入したCaco-2細胞の確立を試みている。一般的な抗炎症作用を評価するために用いられるマクロファージ培養株RAW264.7細胞のレポーター遺伝子安定導入細胞を用いて、予備的な検討を進めている。 動物レベルでは、魚油の抗炎症作用を介した食後高脂血症改善作用を評価するための実験条件の決定に手間取っており、未だ魚油の作用を評価するに至っていない。実験条件が決まり次第、DHA・EPAの存在形態の違いによる食後高脂血症改善作用の評価を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず細胞レベルでは、腸管上皮モデル細胞であるCaco-2細胞を用いた脂質輸送の実験系によりDHA・EPAの抗炎症作用を検討する予定であった。Caco-2細胞で炎症を効率的に評価するため、炎症時に活性化される転写因子NF-kBの活性をルシフェラーゼによりモニターできるレポーター細胞をCaco-2細胞で確立するため、NF-kB応答配列下にルシフェラーゼを組み込んだレポーター遺伝子をCaco-2細胞に導入した。一過性に導入することでもNF-kBの活性化を評価することは可能であるが、実験後とのばらつきなどを極力、低くするために、レポーター遺伝子の安定導入株の構築を試みた。現在、薬剤耐性により選択後、クローニングを行っている。 次に動物レベルでは、魚油の抗炎症作用による食後高脂血症改善作用を評価する前に、高脂肪食誘導性の腸管炎症を介した食後高脂血症増悪化について、詳細に検討し、魚油による実験の各種条件を決定することを試みた。しかし、動物室周辺の工事のためにマウスの飼育がうまくいかず、ポジティブコントロールである60cal%高脂肪食群で食後高脂血症が悪化しない実験が続き、最終的に前年度までの実験結果の再現性の確認までしか結果が得られなかった。マウスでは、60cal%高脂肪食により食後高脂血症が増悪化し、食餌中の脂質を構成する脂肪酸が飽和脂肪酸の場合のみ、この増悪化が認められ、不飽和脂肪酸の場合は、高脂肪食であるにも関わらず、増悪化が見られない。また飽和脂肪酸による食後高脂血症増悪化が起こる条件下で、炎症性サイトカインの遺伝子発現が増加しており、腸管炎症が惹起されていることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
細胞レベルでは、NF-kB活性をモニターできるCaco-2レポーター細胞のクローニングを完了し、in vitroで腸管炎症を再現し、DHA・EPAの抗炎症作用を評価する。また魚油中でDHA・EPAはほとんどが中性脂肪の形で存在しているが、一部はリン脂質体など別の形態を取っており、その形態の違いでDHA・EPAの抗炎症作用に差が生じる可能性があるため、そうした形態の異なるDHA・EPAの抗炎症作用を評価する。2019年度には、Caco-2細胞ではなく、まず一般的な抗炎症作用を評価するのに用いられるマクロファージ培養株RAW264.7細胞にNF-kBレポーター遺伝子を安定導入した細胞を用いて予備的に評価する予定である。その後、Caco-2細胞を用いた評価に進む。 動物レベルでは、まず一般的な魚油とリン脂質体含量の多い魚油とで経口脂肪負荷試験を行い、食後高脂血症に対する影響を評価する。次にTLR-4ノックアウトマウスを用いて、高脂肪食誘導性の食後高脂血症増悪化が観察されないであろう条件下で各種の魚油を摂取させ、PPAR-alpha活性化能についてのみDHA・EPAの作用を評価する。
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