研究課題
動脈硬化性疾患を予防・改善するためには、その発症リスクとして空腹時血中脂肪濃度よりも重要な食後高脂血症を改善することが有効である。これまでに申請者は、魚油含有DHAが腸管上皮細胞のPPARαを活性化することで食後高脂血症を改善できること、同じ魚油に含まれるEPAには同様の作用が認められないことを明らかにした。しかし近年、魚油中でDHA・EPAはリン脂質体など様々な形態で存在し、そうした存在形態によって抗炎症作用などの生理作用に差が生じることが示唆されている。そこで本研究では、なぜDHAとEPAとが食後高脂血症改善作用に違いをもたらすのか、また魚油中での存在形態の違いにより食後高脂血症改善作用に差が生じるのかという二つの問題を、PPARα活性化能と抗炎症作用に着目し解決することを目的とする。これまでに細胞レベルでDHA・EPAの抗炎症作用を評価するため、炎症時に活性化される転写因子であるNF-kBのルシフェラーゼレポーター遺伝子を利用し、マクロファージ培養細胞であるRAW264.7細胞や腸管上皮モデル細胞であるCaco-2細胞で、抗炎症作用を評価してきた。動物レベルでは、魚油の抗炎症作用を介した食後高脂血症改善作用を評価するための実験条件の決定に手間取っていたが、高脂肪食摂取により消化管で炎症が惹起される条件は確定できた。今後、DHA・EPAの存在形態の違いによる食後高脂血症改善作用の評価を実施する予定である。
3: やや遅れている
まず細胞レベルでは、腸管上皮モデル細胞であるCaco-2細胞を用いた脂質輸送の実験系によりDHA・EPAの抗炎症作用を検討するため、炎症時に活性化される転写因子NF-kBの活性をルシフェラーゼによりモニターできるレポーター細胞をCaco-2細胞で確立を試みてきた。しかし、このルシフェラーゼの系では実験結果が安定せず、正確に抗炎症作用を評価することが困難であると考え、炎症マーカー遺伝子のmRNA発現を定量することにより抗炎症作用の評価を行った。その結果、DHAとEPAに抗炎症作用という点で大きな差異は認められなかった。動物レベルでは、魚油の抗炎症作用による食後高脂血症改善作用を評価するために、高脂肪食誘導性の腸管炎症を介した食後高脂血症増悪化について詳細に検討し、実験条件を確定させた。前年度に報告の通り、マウスでは60cal%高脂肪食により食後高脂血症が増悪化し、食餌中の脂質を構成する脂肪酸が飽和脂肪酸の場合のみ増悪化が認められる。また飽和脂肪酸摂取による食後高脂血症増悪化が起こる条件下で、炎症性サイトカインであるTNF-alpha遺伝子の発現が増加しており、腸管炎症が惹起されていることが示唆された。今後、同条件にて魚油の食後高脂血症に対する影響を検討する予定である。
細胞レベルでは引き続き、NF-kB活性をモニターできるCaco-2レポーター細胞のクローニングを試み、in vitroで腸管炎症を再現し、DHA・EPAの抗炎症作用を評価する。またリン脂質体などの形態の違いでDHA・EPAの抗炎症作用に差が生じる可能性を検討するため、様々な形態のDHA・EPAの抗炎症作用を評価する。動物レベルでは、まず一般的な魚油とリン脂質体含量の多い魚油とで経口脂肪負荷試験を行い、食後高脂血症に対する影響を評価する。次にTLR-4ノックアウトマウスを用いて、高脂肪食誘導性の食後高脂血症増悪化が観察されないであろう条件下で各種の魚油を摂取させ、PPAR-alpha活性化能についてのみDHA・EPAの作用を評価する予定である。
表記金額よりも少額の試薬等を購入する必要がなかったため。次年度に繰り越すことで、表記金額を超える試薬等の購入に充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件)
FEBS Letters
巻: 593 ページ: 1201-1212
Journal of Agricultural and Food Chemistry
巻: 67 ページ: 10595-10603
iScience
巻: 22 ページ: 336-352