研究実績の概要 |
ラットの動物実験では4%エタノール摂取群で血清トリグリセリド(TG)濃度が有意に低下していた。肝臓における脂質代謝関連蛋白(LXRα,SHP,CYP7A1など)の遺伝子発現を調べると,LXRα,SREBP1,LRH-1, PPARα, HNF-1α, ABCG8, ABCG1のmRNA発現増加が4%エタノール摂取群で見られた。この中で核内受容体PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)の活性化は脂肪酸のβ酸化を促進することで血清TGの低下が起きることが推測される。このためHepG2細胞の培養実験での再現を試みたが,エタノールを0.2~0.8%添加した培地ではPPARαの遺伝子発現に変動は見られなかった。また,胆汁酸のリガンドとして働く核内受容体FXR(farnesoid X receptor)のターゲット遺伝子であるSHP(small heterodimer partner)がエタノール摂取ラットで発現増加傾向にあったことから,エタノール摂取によりFXRが活性されてTG濃度が低下した可能性が示唆された。しかし,HepG2細胞では予想に反してSHPの遺伝子発現はエタノール添加で有意に低下しており,ラットの実験結果と異なった。エタノールの代謝に関与するCYP3A4を発現させたHepG2細胞においても,エタノールによる遺伝子発現の増加は見られなかった。エタノール摂取ラットで見られた血清TGの低下は動脈硬化に対し予防的である可能性がある一方で,動物実験で見られた遺伝子発現の変動を細胞培養実験で期待通りに再現することが困難であったため,そのメカニズムを明らかにすることはできなかった。
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