研究課題/領域番号 |
18K05497
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
高山 定次 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (40435516)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トリチウム / 前処理 / マイクロ波 |
研究実績の概要 |
トリチウムは低エネルギーβ線を放出する水素の放射性同位体であり、経口摂取による内部被ばくに関与する重要な放射性核種の一つであるが、分析前処理法が煩雑かつ長時間を要するため、その測定データは福島第一原子力発電所事故以降も十分とは言えないのが現状である。この前処理とは、試料中の水分の乾燥と有機物を燃焼・灰化する工程である。これまでに有機物や水分に対するマイクロ波の良好な発熱特性に着目し、電子レンジ型のマイクロ波炉で乾燥と燃焼・灰化まで行ったが、部分的な乾燥や燃焼と言った課題が明らかになった。その解決策として、マイクロ波の出力制御と電磁界分布の最適化に考えが至った。本研究では、マイクロ波出力の制御及び電磁界分布を最適化することで回収効率を向上させ迅速化を目指している。 本年度は、細長型のマイクロ波加熱炉を用いて実験を行った。この装置は、一般的な電子レンジのようにマイクロ波が均一になる構造とは異なり、発振器から出力されたマイクロ波が拡散する前に加熱試料に当たるように設計した。また、マイクロ波加熱炉のガスの下流側には酸化触媒と赤外線加熱炉を配置して、燃焼で発生する有機物ガスを酸化し、二酸化炭素と水分に分解できるシステムにした。加熱試料は、これまでに指標植物として燃焼法による分析データがある松葉(含水率:約60%)を用いて、従来法との比較を行った。流したガスは、乾燥処理には窒素ガスを、有機物灰化処理には酸素と窒素の混合ガスを流して実験を行った。 その結果、マイクロ波の電界集中を促進するようにアンテナ構造を加熱炉に設けることで、燃焼実験に成功した。また、燃焼で生じた水分を回収する直前に酸化触媒を用いたことで、回収した水分に有機物が残らないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、マイクロ波の電場と磁場の効果を明確にし、マイクロ波出力の制御を最適化することで回収効率を向上させ迅速化を図り、トリチウム測定の迅速・簡便な前処理法とトリチウムの分離・回収に最適なマイクロ波処理装置を開発することである。これまでの研究で、磁界よりも電界の方が乾燥及び燃焼に有効である知見が得られた。その地知見を基に、細長型マイクロ波加熱炉にマイクロ波導入方法の工夫とアンテナ構造を導入した結果、一般的な電子レンジタイプのマルチモードでも電界エネルギー密度を高め、燃焼実験に成功した。さらに、酸化触媒などの工夫により、水分回収率を高めることにも成功したので、おおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、マイクロ波の2つの研究要素に着目して、迅速・簡便な前処理による新規な食品中トリチウム処理手法の開発を目指している。一つ目は、マイクロ波は電界と磁界で構成されるので、その電界及び磁界の最適利用法の確立である。電子レンジ型の加熱装置はマイクロ波が均一になるように設計されている半面、電界エネルギー密度が小さく、エネルギー効率の点では改善の余地が残っている。そこで初年度には、マイクロ波の導入方法とアンテナ構造の導入により、電界を一部に集中させ、標準試料である松葉を用いて乾燥・灰化処理の実験に成功した。 二つ目の要素が、マイクロ波出力制御法の最適化である。マイクロ波出力制御には、一定出力制御とパルス制御の制御方法があり、初年度に成功した電界集中方法にプラスして、乾燥過程と灰化過程でのマイクロ波制御方法の最適化を本年度に行うことを計画している。最終年度には、実際に食品を用いて前処理を行い、乾燥過程で発生する水分の回収や、灰化過程で発生する廃ガスから水素を水として回収するシステムを組み合わせ、開発した測定装置の妥当性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に購入予定の半導体発振器を購入するために、本年度の予算を繰り越した。
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