6週齢のICR系雄性マウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解したアルギニンを体重100g当たり160mg腹腔内投与して1時間後に屠殺し、後肢から腓腹筋、前脛骨筋を摘出して、S6K1のリン酸化状態を指標としてタンパク質合成活性の変化を評価した。その結果、アルギニン投与によっていずれの骨格筋でもS6K1のリン酸化が有意に増加し、アルギニンがタンパク質合成を促進する作用を有することがin vivoで示された。そこで、アルギニンセンサーと考えられているCASTOR1の遺伝子およびタンパク質の後肢骨格筋での発現を調べた。その結果、腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋でCASTOR1遺伝子の発現が確認されたが、タンパク質は検出できなかった。動物実験と並行して筋管細胞に分化誘導させたマウス由来筋芽細胞株C2C12細胞を用いて、アルギニンによるタンパク質合成促進作用のシグナル伝達経路の探索を行った。C2C12細胞をmTORC1阻害剤で処理するとアルギニンによるS6K1のリン酸化の増加が消失したことから、アルギニンのタンパク質合成促進作用はmTORC1経路を介することが示唆された。また、アルギニンから産生されるNOの関与について、NO合成酵素の阻害剤を用いて調べた結果、NOは関与しないことが示唆された。さらにAKT経路、ERK経路、AMPKのmTORC1活性化への関与についても、これらのリン酸化状態の変化を指標に調べた。アルギニン処理によりAKT、AMPKのリン酸化状態は変化しなかったが、ERK1/2のリン酸化が有意に増加した。そこで、ERK1/2の阻害剤で処理したところ、アルギニンによるERK1/2のリン酸化の増加は阻害されたが、S6K1のリン酸化状態は影響を受けなかった。このことから、アルギニンのタンパク質合成促進作用にERK経路は関与しないことが示唆された。
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