幼児期のインスリン抵抗性発現には母体の影響が大きく関与しており、妊娠期に肥満かつ高血糖の母体は出生した新生児のインスリン抵抗性発現の危険因子となることが報告されている。 初年度に確立した高血糖モデルラットを使用し、昨年度は授乳期の新生子ラットへウシラクトフェリン(bLf)を経口投与することで膵臓β細胞の顕著な増殖が確認されたため、今年度は膵臓組織の関連遺伝子発現解析を行った。 その結果、高脂肪食(HF)群の母ラットから出生し、授乳期間および離乳後もHFを給餌されたラットでは、顕著なインスリン発現の促進を認めたが、bLf投与によってこの変化は減弱され、コントロール食(Cont)群と同レベルに改善した。なお、Cont群にbLf投与を行った場合にはインスリン発現は有意に増加することから、bLf自体にはインスリン発現促進効果があると考えられる。一方、高血糖状態でbLfを投与すると膵臓β細胞の数的増加によって血糖調節の正常化へシフトすることが示唆された。 一方、膵臓のプログルカゴンもbLf投与によって発現が有意に促進されたが、HF給餌による影響はみられなかったことから、bLfの効果は高血糖に対してある種の特異的な効果であると考えられた。また、膵臓からのインスリン分泌に影響を及ぼす腸管由来のインクレチンであるGLP-1および膵臓のGIP受容体発現を解析したところ、HFを給餌することでGIP受容体およびGLP-1発現は低下したが、bLf投与はこれらの影響を改善し、GIP受容体とGLP-1の発現はどもに有意な促進が確認された。 以上の結果から、妊娠期から授乳期および離乳後も高脂肪食を給餌することで発現する血糖調節異常は、授乳期のbLf経口投与によって改善され、その機序として膵臓のβ細胞の増殖とインスリンの合成および分泌に関わる遺伝子発現調節が関与することが示唆された。
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