渋味物質として、農産物・食品中に含まれる代表的なポリフェノール4種類(1-4)を用意した。これらの渋味強度はヒトの官能によって強と弱の2つのグループに分類されように構成した(強=1&2、弱=3&4)。一般的に、渋味物質は疎水性が高いため、これらを認識するレセプター分子の構造中には疎水性の結合部位を導入した。さらに親水基も導入することによって十分な水溶性を確保した。このような設計指針のもと、3種類のレセプター分子の合成を試みたが、1種類はその化学的性質のために反応系から単離することができなかった。その結果、2種類のレセプター分子を得た(5&6)。これらのレセプター分子と上記のポリフェノール化合物との複合体形成を蛍光発光スペクトル滴定実験に基づいて評価した。レセプター分子(5)とポリフェノール(1-4)の水溶液はレセプター:プリフェノール=1:1と1:2の化学量論比で構成される複合体が共存する化学平衡系となった。ポリフェノール(1、2)に対する結合定数は1:1および1:2複合体ともに4000 L/mol以上の値を示し、全結合定数は1×E7 L/molという大きな値となった。一方、ポリフェノール(3、4)に対する全結合定数は1×E5 L/mol程度であった。ヒトの官能によるこれらのポリフェノール類の相対的強度の関係は既に知られており、上記のレセプター分子(5)のポリフェノール(1-4)に対する結合強度はヒトが感じる味の強さを反映していると見なすことができる。レセプター分子(6)のポリフェノール(1&2)に対する結合定数はレセプター分子(5)のそれらに比べてかなり小さく(1×E2 L/mol程度)、ポリフェノール(3&4)に対してはほとんど結合性を示さなかった。
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