研究課題/領域番号 |
18K05518
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
長岡 伸一 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (30164403)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 食品機能 / 抗酸化活性 / ラジカル消去反応 / 一重項酸素消去反応 |
研究実績の概要 |
我々は、様々な抗酸化物質や食品成分が活性酸素の一つであるフリーラジカルを消去する能力を評価する方法(ARAC法)、同様に一重項酸素を消去する能力を評価する方法(SOAC法)、フリーラジカルにより酸化されたビタミンEを再生する能力を評価する方法(ATREC法)を開発してきた。本研究では、これらの方法を食品の抗酸化活性の評価方法として実用化することを目的とする。 本年度は、均一溶媒中で脂溶性のα-トコフェロール単体、水溶性のカテキン類単体、及び両者が共存する場合のフリーラジカル消去反応速度を測定した。α-トコフェロールとカテキン類が共存する場合の反応速度は単体の速度の和よりも大きく、フリーラジカル消去活性に相乗効果が見られることが分かった。また、α-トコフェロール単体のラジカル消去反応ではα-トコフェロールが酸化されて生成したα-トコフェロキシルラジカルの吸収ピークが観測されたが、カテキン類を共存させるとそのピークは消失した。これは、反応で生成したα-トコフェロキシルラジカルをカテキン類がα-トコフェロールに再生していることを示している。 さらに、8種類の食用油のフリーラジカル消去反応速度と一重項酸素消去速度が元々含有しているビタミンE類による消去速度と食用油中の含有量で説明できるかどうかを研究した。食用油のフリーラジカル消去速度は含有するビタミンE類のみによる消去速度とほぼ等しかった。しかし、一重項酸素消去速度は含有するビタミンE類の消去速度のみならず大量に含まれている脂肪酸類の消去速度との和をとっても実測値よりもかなり小さな値となった。これは、食用油に少量含まれるSOAC値の大きなカロテノイド類などの抗酸化物質が一重項酸素消去速度に寄与しているためであると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究成果などに基づき、2020年1月10-11日に松山の愛媛大学城北キャンパスで開催された第31回ビタミンE研究会の代表世話人に選ばれ、100名近い参加者を得たので、関連研究者たちからは当初の計画以上に研究が進展していると評価されていると思われる。研究代表者も第31回ビタミンE研究会において口頭発表1件、ポスター発表3件の発表を行った。 その他にも、国際欧文誌に3件、邦文誌に1件の原著論文が掲載され、公的研究機関では東北大学、城西大学、公益財団法人計算科学振興財団、一般財団法人高度情報科学技術研究機構、企業ではエーザイ株式会社と積極的に当該テーマに関わる共同研究を行っている。2019年7月には愛媛県立松山西中等教育学校においてビタミンEの抗酸化作用についての講演を行い、情報公開に努めた。また、その他の研究での原著論文の掲載が1報有り、富山大学、広島大学とも別件での共同研究を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究実績の項で述べたように、脂溶性のα-トコフェロールと水溶性のカテキン類が共存する場合のフリーラジカル消去反応速度は単体の速度の和よりも大きく、消去活性に相乗効果が見られる。また、食用油のフリーラジカル消去速度は含有するビタミンE類のみによる消去速度とほぼ等しい。こうした結果をふまえて今後は、両者とも脂溶性であるα-トコフェロールなどのビタミンE類とユビキノール(還元型のCoQ10)のフリーラジカル消去速度の相乗効果を研究する。また、ビタミンE類を含む食用油とユビキノールの相乗効果についても研究して、相乗効果のメカニズムを明らかにする。 また、ミセルや血清中などのヒトの生体内環境に近い条件下での抗酸化活性の測定を行って、均一溶媒と比べて抗酸化能力がどのように変化するかなどのデータを収集する。得られたデータを用いて、ARAC、SOAC、ATREC値のデータベースを更新する。 さらに、人工知能を用いた階層型ニューラルネットワークを通じた機械学習を使って、ARAC、SOAC、ATREC値の解釈と予測についての研究を実施し、評価方法の確立を目指す。こうした予測は抗酸化活性評価の実用化促進のために有用である。 その他にも、ドーパミン類などの興味深い抗酸化物質や水による抗酸化活性への溶媒効果についても研究する。 得られた結果を用いて、ARAC法、SOAC法、ATREC法を統合して総合的な食品の抗酸化活性評価方法の確立を目指す。これらの結果に基づいて、老化防止に貢献する食品への付与情報としてニーズのある抗酸化能力の分析・測定技術の整備を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
3月分の人件費・謝金を支払ったため差が生じた。翌年度物品費を購入するため使用する予定である。
|
備考 |
上記ウェブはARAC、SOAC、ATREC値のデータベースである。
|