研究課題
トリコテセンとは、トリコテセン骨格を有するかび毒の一群である。中でも、Fusarium属菌が生産するトリコテセン類は、小麦等への汚染が頻繁に確認され、ヒトへの健康被害が強く懸念されている。また近年、生合成遺伝子の進化によって生産されたと考えられる進化型トリコテセン、体内に取り込まれると糖が外れて毒性が戻る糖抱合型トリコテセン等、これまで知られてこなかった新規のトリコテセンの報告が相次いでいる。これらは従来法では検出されず、食の安全にとって大きな脅威となりうる。そこで本研究では、食に混入する恐れのあるトリコテセンを包括的にデータベース化したMS/MSライブラリーを作成し、食の安全検査体制を構築することを目指した。Fusaruim sporotrichioidesはT-2 toxinというトリコテセンを生産するが、この菌株はC-7位水酸化酵素遺伝子を持たない。しかし、C-7位が水酸化されたT-2 toxin類縁体の存在については、その可能性が示唆されている。そこで、この菌株のトリコテセン生産の初期酵素を欠損させた遺伝子破壊株を作製し、この株にC-7位水酸化トリコテセンを添加することで、新規のトリコテセンが生産される可能性があると考えた。この添加実験により、新たに5種類のトリコテセンの生産に成功し、そのMS/MSパターンと細胞毒性を明らかにすることができた。また、非Fusarium属のトリコテセン生産菌にFusarium属のトリコテセンを添加する、またその逆の添加実験を行ったところ、そこから新たなトリコテセンの生産を確認することができた。中でも新規性の高いものは8-deoxytrichodermolとtrichodermolのC-4位の配糖体で、これまでのトリコテセンのC-3位の配糖体とは異なり、全く新しいトリコテセン配糖体と言える。現在、その細胞毒性を検証している。
2: おおむね順調に進展している
2018年度の研究目標として挙げたのは、①属種が異なる複数のトリコテセン生産菌の生合成経路を利用、あるいは遺伝子改変技術を駆使し、新規トリコテセンを創製する、②大量生産後に精製し、LC-MS/MSとNMRによりその構造を決定する、③トリコテセン高感受性酵母や培養細胞を用いて毒性を検証する、の3点である。2018年度には既に複数のトリコテセンで上記の目標を達成しており、現在もなおそのトリコテセン数を増やせるよう、鋭意研究中である。
①属種が異なる複数のトリコテセン生産菌の生合成経路を利用、あるいは遺伝子改変技術を駆使し、新規トリコテセンを創製する、②大量生産後に精製し、LC-MS/MSとNMRによりその構造を決定する、③トリコテセン高感受性酵母や培養細胞を用いて毒性を検証する、という3つの課題はそのまま続行する。この3段階の作業で、包括的トリコテセンMS/MSライブラリーを構築し、同時に、トリコテセン全般の構造活性相関を見出すことを目指していく。さらに、構築されたライブラリーを用い、④トリコテセン汚染の可能性がある穀類や食品を対象に、トリコテセン混入についてパイロット調査を行う、⑤トリコテセン汚染が確認され場合は、そのトリコテセン生産菌・トリコテセン構造・植物宿主の間の関連を検証する、という方向に研究を発展させる予定である。
2018年度は、予想外に研究費のかからない部分の研究が進んだため、そちらに研究の労力をかなり割くこととなった。その分、今後研究費のかかる部分を2019年度以降に回したため、このような状況となった。
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JSM Mycotoxins
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https://doi.org/10.2520/myco.69-1-2
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