研究課題/領域番号 |
18K05526
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
山本 敦 中部大学, 応用生物学部, 教授 (60360806)
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研究分担者 |
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
山本 雅納 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70802966)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 特異的吸着剤 / オクラトキシンA / リュープロレリン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、特異的吸着性を発現可能な素材の開発である。目的溶質をカビ毒に特化し、食品の複雑なマトリクス中から選択的捕捉を可能とする素材の探索である。そのためには、溶質と官能基間の分子レベルでの相互作用を理解する必要がある。ポリ臭素化アレーン類を固定化した吸着剤に芳香族尿素化合物が特異的に吸着される機構の解明を試みた。臭素原子と尿素構造の持つ分極率がロンドン分散力を誘導するのは確かであるが、それだけでは強固な吸着性を説明できない。我々は、溶質の等温吸着線から得られる熱力学的解析、吸着剤表面のモデル化合物を合成して溶質とのNMR解析、吸着剤の溶液中での吸着剤粒度分布測定を行い、得られた結果をメタ汎関数による計算モデリングを行うことで、二分子の官能基が一分子の溶質を挟み込むモデルによる説明が最も合理的であることを明らかとした (ChemPlusChem 2018, 83, 820-824)。この知見を元に、カビ毒オクラトキシンA (OTA) が血清アルブミンと結合するサイトを構成するアミノ酸の中で、トリプトファンとアルギニンの役割に着目し、これら両アミノ酸を構成アミノ酸とするペプチド類から、下垂体の性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体に対するアゴニストであるリュープロレリン (Leu) を官能基として選択した。選択理由は、このペプチドの両末端が修飾されていることで遊離のアミノ基やカルボキシル基が存在しないこと、トリプトファン、アルギニンを挟む形でチロシンが存在し、ベースゲルへの結合官能基としてこのフェノールしか見当たらず、全てのLeuが同一の形状を保つと考えられる。このLeu固定化吸着剤は、アセトニトリル中でOTAに対する結合定数が 20,000 /M 程度を示すことが認められ、今後のカビ毒分析にとって有用なツールになりうることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸着剤に特異性を発現させるためには、二点以上の溶質認識部位を必要とすることが計算科学によって改めて実証できた。また、吸着剤と溶質の結合様式を認識する物理化学的手段も確立できた。OTA をアミノ酸二点で認識可能と考えられる Leu は、水中よりもアセトニトリル中でより高い認識能を示した。Leu のようなペプチドにとって、抗体や酵素のような溶質認識タンパク質に対する最大の利点が耐有機溶媒性である。アセトニトリル中でこのペプチドプローブを使用することで、吸着剤担体に対する非特異的吸着は最大限除去可能となり、抗体カラムに匹敵する精製効果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目においては、Leu を用いた吸着剤の応用を優先的に進めていく。含水、含塩アセトニトリル中でのOTA捕捉能の評価後に、食品抽出液のアセトニトリル塩析溶液からの OTA 抽出の実用性を確認し、その成果を広く関連業界に周知する。 構成アミノ酸数が 10 程度のペプチド類は、比較的安価に合成可能である。OTA 識別能の高い Leu のアミノ酸配列を変更したペプチドを導入した吸着剤による結合定数を比較することで、抗体に匹敵するペプチドプローブの作成を進めていく。 ここでの知見を更に展開し、OTA 以外のカビ毒に対する特異的ペプチドプローブ開発にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
血清アルブミンの OTA 結合サイトを参考にしたペプチドとして、最初に検討した Leu の OTA に対する親和力が想定外に強く、この評価だけで研究初年度が費やされた。従って、高価な他のペプチド類を考慮する必要性が発生せず、これが前年度予算執行が少なく済んだ最大の理由である。次年度は、Leu 類似ペプチド合成にこの費用を充てたい。
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