研究課題/領域番号 |
18K05530
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
時田 佳治 群馬大学, 大学院保健学研究科, 助教 (70588003)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 活性硫黄分子種 |
研究実績の概要 |
硫酸化多糖は様々な生物活性が認められているものの、食習慣がこれらの動態や代謝産物に影響を与えることも明らかになりつつありながらも体内動態や作用機序は依然として不明である。 そこで本研究では海藻由来硫酸化多糖であるフコイダンや海藻の長期摂取による体内動態への影響を調べ、さらに近年第3のガス状メディエーターとして注目されている硫化水素についてその挙動解析を行った。 その結果、対照群においてフコイダン経口投与マウスの糞便ならびに尿中フコイダンを解析したところ、投与フコイダンの大部分が糞便中に排出され分子量は投与フコイダンと同じ(10万Da)であった。一方、尿中にもフコイダンが検出されたが、それぞれの分子量分布は投与フコイダンと同じ分子量のピークに加えて、その一部のフコイダンが低分子化(1万~2万Da)していた。これはフコイダンならびにモズク飼料群でも差はなかった。糞便中の硫化水素を測定したところ、フコイダン経口投与後フコイダン含有試料群ならびにモズク含有試料群では硫化水素濃度に有意な変化が見られなかった。 マウスでのフコイダンの消化管内の動態解析の結果、フコイダンの大部分は分解されずに排泄されるが、一部が分解を受けて吸収されて尿中に検出された。このことはフコイダンが吸収され、その中でも一部のフコイダンが消化管ないし吸収後に分解を受けることを示唆している。これらの吸収や分解が海藻の長期摂取により影響を受けるか検討したが、ポルフィランで見られるような長期摂取による消化管での吸収や分解に変化は見られなかった。また、動物体内にみられる硫酸化多糖で代表的なグリコサミノグリカンの一つあるコンドロイチン硫酸ではコンドロイチン硫酸の4週間の投与により消化管内の硫化水素の濃度が上昇することが知られているが、同じく硫酸化多糖であるフコイダンにおいては長期投与による硫化水素産生亢進は見られなかった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していたフコイダンの長期経口摂取後の腸内細菌による硫化水素産生について、例数を増やした実験の結果として有意な差がみられず研究計画の修正が必要となった。 また、新型コロナウイルス感染拡大を受けた研究活動の制限により新規の動物実験の開始が難しくなったため。
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今後の研究の推進方策 |
消化管での硫酸化多糖由来の硫化水素産生が硫酸化多糖の健康効果のメカニズムであると考えたが、硫酸化多糖の一つであるフコイダンでは硫化水素産生に変化は見られなかった。そのことからフコイダンの生体への影響にフコイダンの硫酸基が硫化水素に還元されることで活性硫黄分子種を産生するという仮説はフコイダンの種々の健康効果の作用機序ではないと考えられる。一方、同じ硫酸化多糖であるコンドロイチン硫酸は硫化水素のわずかな受賞がみられることが報告されている。そのため、コンドロイチン硫酸による種々の健康効果には活性硫黄分子種が関わっている可能性がある。 現在、消化管内で産生された硫化水素は、潰瘍性大腸炎といった毒性の側面が強い。一方で、サルフェン硫黄を含むジアリルジスルフィド (DADS) やジアリルトリスルフィド (DATS) といったスルフィド (R1 S(n) R2)の構造を有する含硫化合物による健康効果については多数の報告がある。 これらの物質の経口摂取後の生体内の動態は明らかにされていない。そこで、これらの物質の消化管から吸収されたのちの体内動態の解明ならびにその評価法の確立しながら、実際の臨床検査地との関係を調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した仮説とは異なる結果が得られたことによる研究計画の見直しならびに新型コロナウイルス感染拡大に伴う実験計画の遅延にため。
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