本研究課題は硫酸化多糖を対象として硫酸基が消化管内で活性硫黄分子種の産生の可能性があることから、従来不明であった硫酸化多糖の生理活性の機序を明らかにしようとした。これまでの硫酸化多糖であるコンドロイチン硫酸の長期投与によって消化管内の硫化水素産生が有意に増加するとする報告から、硫酸化多糖が活性硫黄分子種の産生に寄与することが示唆されてきた。これをうけて研究代表者は海産物硫酸化多糖としてフコイダンを標的として活性硫黄分子種の産生評価を行う測定系を確立し、マウスにフコイダンならびにフコイダン含有食品としてモズクを経口投与した。その結果、有意な硫化水素の上昇を確認することができなかった。個体別に見ると、フコイダンならびにモズク摂取群では糞便での硫化水素が高い個体もいたが、統計的有意差が得られなかった。このことは硫化水素産生はコンドロイチン硫酸とは異なりフコイダンによる影響を受けない、または硫化水素が最終産物ではない可能性を示唆するものと考えた。 申請者の関わった臨床研究から硫酸化多糖が多い海産物が有意にBMIなどの生活習慣病因子の改善に寄与することを示した。先に述べたコンドロイチン硫酸の長期投与によって硫化水素が増加することが報告されているが、その際に糖尿病の改善が報告されていることから、消化管内硫化水素が生活習慣病予防に寄与する可能性が示唆された。一方、硫化水素以外の活性硫黄分子種であるジアリルトリスルフィドなどのサルフェン硫黄の生理作用が報告されており、これらの活性硫黄分子種が責任分子である可能性が考えられる。 本研究では責任分子の同定には至らず、その後のメカニズム解明のための腸内細菌叢の解析には至らなかった。今後、硫酸化多糖の生活習慣病の予防効果の機序を解明するうえで責任分子の同定のためのさらなる研究が必要であると考えられる。
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