研究実績の概要 |
NAFLD (非アルコール性脂肪肝疾患)は環境要因と遺伝要因から発症する多因子疾患であるため、その発症メカニズムは完全に解明されていない。高脂肪食摂取により、重篤な脂肪肝を示すSMXA5マウス (脂肪肝抵抗性のSM/JとA/Jを両親系統とする)を用いて、その遺伝的要因の解明を目指し研究を進めてきた。その過程で脂肪肝の候補遺伝子として見出したIah1(isoamyl acetate-hydrolyzing esterase 1 homolog)遺伝子の機能解析を進めた。遺伝的背景の異なる2系統の全身性Iah1 欠損(KO)マウスの表現型解析から、Iah1のin vivoにおける機能を解析した。C57BL/6N背景およびA/J-12SMマウスの背景でIah1をKOしたマウス(A/J-12SM Iah1 KO)においても、肝臓中性脂肪含量の増加は見られなかった。Iah1は腎臓、肝臓、脂肪組織などでも発現がみられることから、肝臓以外の組織においてもIah1が脂質代謝に関与している可能性が考えられた。そこで、異所性脂肪蓄積 (脂肪肝)に影響を与える精巣上体脂肪組織のDNAマイクロアレイ解析を行ったところ、アディポカインであるSfrp4 (Secreted frizzled-related protein4)のmRNAレベルがA/J-12SM Iah1 KOマウスで有意に減少し、Metrnl (Meteorin-like protein)は減少傾向を示した。KOマウスの解析からIah1は白色脂肪組織においてアディポカインを変化させることを明らかにした。 次に、マウス脂肪細胞株3T3-L1を用いて脂肪細胞でのIah1の機能を探索した。3T3-L1細胞においてIah1をノックダウンしたが、アディポカイン (Sfrp4, Mertrnl)のmRNAは変化しなかった。in vivoでみられたアディポカインの変動は、脂肪細胞のIah1欠損によって直接的に引き起こされたのではなく、全身の代謝が変化したことによる2次的な作用の結果である可能性が示された。
|