研究実績の概要 |
カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリ(以下、「カンピロバクター・ジェジュニ/コリ」という)の自然環境における生態・動態を把握するために、京都市(鴨川沿岸および中洲)・宮崎市(大淀川沿岸)・茨城県(霞ケ浦沿岸)において、野鳥(主にカモ)の新鮮糞便144サンプルを収集した。リン酸緩衝食塩水により10%に調整した糞便液の遠心上清から、自動核酸抽出機を用いて、DNAを抽出した。抽出DNAに対して、遺伝子検出法(蛍光LAMP法とリアルタイムPCR法)によって、カンピロバクター・ジェジュニ/コリの保菌率を調査した。予想に反して、すべてのサンプルが陰性を示した。
研究代表者らの先行調査では、肉養鶏(ブロイラー)のクロアカ(糞便)を対象とした、蛍光LAMP法によるカンピロバクター・ジェジュニ/コリの陽性率は33%だった(Sabike and Yamazaki, 2019, J Food Prot, 82 (2), 189-193)。それゆえ、肉用鶏と比較して、野鳥(主にカモ)におけるカンピロバクター・ジェジュニ/コリの保菌率は極めて低いか、保菌しているとしても、その保菌量は高感度な遺伝子検出法の検出感度を下回り、少量である可能性が示唆された。
遺伝子検出に対する阻害物質(糞便・クロアカ内に存在すると推測される)のより簡易な除去法の開発には、いまだ成功していない。開発を検討する工程で、糞便・クロアカよりも阻害物質が少ないサンプル(ヒト唾液とウシ血液)を対象とする、新しい簡易核酸抽出法を想起した。本法の開発に成功したので、唾液からの新型コロナウイルスRNA、血液からのウシ白血病プロウイルスDNAの簡易な抽出と遺伝子検出がそれぞれ可能になった(いずれも査読付論文として詳細を公表済)。ヒト・動物感染症の両方の診断能力を向上させ得る重要な知見が得られた。
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